スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
 ゆかりの口を塞いでいると、陽気な声と共に有紗の背中に誰かの手が触れる。振り返れば大樹が立っており、当たり前のように有紗の隣に腰を下ろした。手には定食が乗ったトレイを持っていて、どうやらここで食べていくらしい。

 有紗は無意識に体を離したが、ゆかりは面白がって身を乗り出した。

「噂をすれば! 羽鳥くんができる男になったって話。有紗も珍しく褒めてるし」
「ゆかり……!」
「うわ、何それ嬉しい。努力した甲斐があったわ」

 有紗に褒められたことが嬉しかったのか、大樹はわかりやすく口角を上げる。

「誰かさんにさ~、良い男になって帰ってこいって脅されてたのよ俺」
「あは、そんなこと言うの絶対有紗しかいないじゃん! 有紗理想高いからな~」
「そうそう。『やっぱり不真面目でだらしない男は無理!』って言われたの、未だにこたえてんだよなぁ」
「もう、昔のことじゃない……」

 当時は同期の中でも公認カップルだったこともあり、ゆかりも一緒になって面白おかしく笑っている。

 今となっては笑い話だが、当時は「有紗と離れ離れになるなら転職しようかな」と言っていた大樹を止めるためだった。せっかく実力はあるのに、仕事への熱がイマイチだった大樹の背中を押すべく、有紗から一方的に別れを告げたのだ。

「俺も向こう行って成長したってことだよな? どう、前よりかっこよくなった?」
「うーん、そうね。垢ぬけた感じ? サンフランシスコ支社から来たってだけでもモテそう」

 大樹に覗き込まれ、有紗は何とはなしに答える。しかしながら大樹が三年前よりかっこよくなったことは事実だった。

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