スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
「本当にそのレベルよ。有紗曰く私生活はちょーっとだらしないらしくてご不満みたいだけどね?」
「はは、それじゃあそいつも振られるかもな。有紗だらしない奴嫌いだし」
「……ねえ、勝手に話進めないでもらえる?」

 ゆかりはこう見えて口が堅く、決してヘマはしないが、この会話を誰かに聞かれたくはない。

 ムッとした顔で二人の会話に割り入ると、ゆかりは「ごめんごめん」と心無い謝罪をこぼしながら時計を見た。

「あ、私午後一説明会の準備あるから行くね。じゃあ羽鳥くん、来週また飲み会でね~」
「おーお疲れ」

 ゆかりが去ったあと、大樹は「俺こっち座ろ」とゆかりが向かい側の席に移動する。
 話に一区切りついたかと思ったのも束の間、大樹はすぐに有紗の恋人の話に戻した。 

「まあでも、それくらい常人離れした相手じゃないと、有紗の彼氏は務まらないってことだな」
「どういう意味よ」
「そのまんまの意味。俺結構プレッシャーだったんだぞ? 有紗は完璧主義だし理想も高かったから、いつ振られるんじゃないかってヒヤヒヤしてたわ」
「えっ……」
「結局振られたけどな。俺が不甲斐ないばかりに」

 カラッと笑って大樹が食事へと戻る。
 決して気まずい雰囲気ではないけれど、大樹の言葉に有紗は昔のことを思い出した。

(大樹を振ったのは、そういう理由じゃないけど……)

 ただ自分のことは気にせずに、新天地で頑張ってほしかった。それに、寂しさを隠すための強がりも混ざっていたのだ。

 だから後腐れもなく振ったのだが、実際は有紗もしばらく引きずっていた。仕事のおかげで塞ぎこまずに済んだけれど。

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