スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
(そんなこと今更言っても意味ないか)
二人はとっくに別れていて、驚くほどに元恋人だった雰囲気もない。そして、有紗には慶汰という恋人までいる。
少しだけ古傷を抉られるような痛みを感じつつ、気付かないフリをした。
◇
その日の午後。クライアントとのオンラインミーティングを終えた有紗はひと息ついた。社内には大中小様々な会議室が完備されており、中でも二、三人用に作られた小会議室は、オンラインミーティングだけでなく、集中して作業をしたいときにもってこいの場所だった。
(他に予約も入ってないし、このまま仕事していこうかな)
有紗が会議室の予約を延長していると、ドアをノックする音に肩を揺らした。
「お疲れ、ちょっといいか?」
「はい……?」
ノックの後すぐに顔を出したのは慶汰で、予期せぬ人物の登場に有紗は首を傾げた。それは彼がわざわざ小会議室に来たことだけではなく、その表情にどこか上司ではなく恋人の色を含んでいたからだ。
慶汰はそのまま会議室に入ると、ぱたりとドアを閉める。
「……なんて。ちょっと休憩。今日帰り遅くなりそうだから」
「えっ、どうしたの?」
「ん? 単純に残業だけど」
「そうじゃなくて、そんな話……」
突然フランクな口調に変わり、有紗はさらに戸惑ってしまう。二人の関係を秘密にしていることもあり、普段恋人らしい会話を社内ですることはない。
「ああ、なんとなく。そういう気分」
「そういう気分って……」
二人はとっくに別れていて、驚くほどに元恋人だった雰囲気もない。そして、有紗には慶汰という恋人までいる。
少しだけ古傷を抉られるような痛みを感じつつ、気付かないフリをした。
◇
その日の午後。クライアントとのオンラインミーティングを終えた有紗はひと息ついた。社内には大中小様々な会議室が完備されており、中でも二、三人用に作られた小会議室は、オンラインミーティングだけでなく、集中して作業をしたいときにもってこいの場所だった。
(他に予約も入ってないし、このまま仕事していこうかな)
有紗が会議室の予約を延長していると、ドアをノックする音に肩を揺らした。
「お疲れ、ちょっといいか?」
「はい……?」
ノックの後すぐに顔を出したのは慶汰で、予期せぬ人物の登場に有紗は首を傾げた。それは彼がわざわざ小会議室に来たことだけではなく、その表情にどこか上司ではなく恋人の色を含んでいたからだ。
慶汰はそのまま会議室に入ると、ぱたりとドアを閉める。
「……なんて。ちょっと休憩。今日帰り遅くなりそうだから」
「えっ、どうしたの?」
「ん? 単純に残業だけど」
「そうじゃなくて、そんな話……」
突然フランクな口調に変わり、有紗はさらに戸惑ってしまう。二人の関係を秘密にしていることもあり、普段恋人らしい会話を社内ですることはない。
「ああ、なんとなく。そういう気分」
「そういう気分って……」