スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
「好きだけど……わざわざテイクアウトしてきたの?」
「そんなわけないだろ。俺が今作ったんだよ」

 何食わぬ顔で言われても、有紗は半信半疑だ。
 目の前には、こんがり焼けたガレットにベビーリーフのサラダとキャロットラペ。さらにはポタージュまで付けられており、見た目は完全にカフェ顔負けのメニューだ。デリバリーしたものを皿に移したのかと錯覚するほど。

「……卵の黄身、割れてないよ?」
「そこ? いつも割れてるわけじゃない」
「うそ! だいたいいつも割れてるし……」
「いいから、とりあえず食べよう。遅刻するから」

 真面目な有紗は遅刻も許せないタチなので、渋々と椅子に腰を下ろす。手を合わせて料理に口をつけると、あまりの美味しさに目を見開いた。

「お、美味しい……」
「よかった。有紗がいつも食べてるやつ再現してみたんだけど」

(再現っていうか……こっちのほうが美味しいかも……)

「これ、本当に慶汰さんが作ったの?」
「こんなことで嘘つかないさ。気に入ってくれたならまた作るよ」
「うん……」

 ガレットだけじゃない。出てきた料理はすべて頬っぺたが落ちるくらい美味しくて、味もカフェ顔負けだった。具材が切れていないとか、調味料を間違えているとか、いつも慶汰がする凡ミスを有紗は必死で探したが、ひとつも見当たらない。

(やっぱり昨日眠れなかったのかな……徹夜明けでナチュラルハイになってるのかも)

 有紗自身もほとんど寝ずに仕事へ行くと、稀に仕事のパフォーマンスが上がっていると錯覚することがあった。もしかすると慶汰もそうなのかもしれない。

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