スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
my sweetheart
◇
それからお酒が進み、気付けば終電の時間をあっという間に過ぎていた。
酔ったゆかりを先にタクシーへ乗せて、有紗と大樹が二人きりになる。
「有紗もタクシー捕まえるだろ?」
「あーうん……歩いて帰ろうかな」
「は?」
慶汰の家は、会社から一駅の好立地。今日は自宅に帰ろうか迷ったけれど、タクシーで帰るくらいならば慶汰の家に帰ったほうがいいだろう。
(結局、何時に帰るか連絡してないけど……)
「鶴生さん、いい場所に住みすぎだろ。それなら途中まで送ってくけど」
「え、いいよ、さすがに。私そこまで酔ってないし……」
「そういう時はだいたい酔ってんだよ。有紗、顔出ないだけだろ」
「う……」
指摘された通り、有紗は自分でも酔いが回っているのを感じていた。しかしながら酔い醒ましに歩く程度には問題ないし、いくら今はただの同期であっても、元恋人に送ってもらうのは気が引ける。
断ろうとすると、大樹は先に歩き出した。
「もう遅いし。俺も話あるからさ」
「話……?」
先ほどまで和気藹々としていたのに、大樹はやけに落ち着いた雰囲気を纏っている。その理由が気になって、大樹の背中を追いかけた。
◇
「俺さ、実は来月こっち戻ってくるんだよね。元々三年って話だったから」
繁華街を抜けると、大樹が話を切り出す。今回の一時帰国はプロジェクトのためで、また落ち着いたタイミングで戻ってくるとのこと。ただ正式な内示が出る前に口外はできず、有紗にも言えずにいたのだ。
「だから今のプロジェクトも最後まで担当するよ。しばらくはオンラインでのやり取りになるけど」
「そっか……わかった。じゃあまた同期会もできちゃうね」
「ああ、そうだな。有紗ともいつでも会えるようになるし」
「はは、なにそれ」
冗談を笑い飛ばそうとして、大樹の声がやけに真剣なトーンであることに気付く。彼は歩みを止めると、有紗を真っ直ぐに見つめた。
「なあ、俺がさ……ずっと有紗のこと引きずってたって言ったら引く?」
「え、何言って――」