スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
「真面目な話。三年前振られてから、忘れられないし。何なら、有紗に見合う男になろうと思って仕事頑張って戻って来たんだよ、俺」
「うそ……」

 いつも軽いノリで冗談を言う大樹だが、どうやら本気らしい。有紗もその雰囲気を察して、口を噤んだ。

「有紗は何の未練もなさそうで、新しい彼氏もいるって聞いて……しかも相手が鶴生さんだって言うから諦めようとしたよ。俺には敵わないだろうなって思って。でも、悩んでる話とか聞いてさ、放っておけないなって」
「え……」
「だって有紗、俺と付き合ってる時、俺に対して引け目なんて感じなかっただろ? 今だって、俺の仕事のことだって素直に褒めてくれるし。それって有紗にとっても良い関係性なんじゃね?」
「それは――」

 図星をつかれ、有紗は言い淀む。
 大樹と付き合っているとき、有紗はいつだって自然体だった。思ったことは何でも口に出せたし、必要以上に我慢することもなかった。だが、慶汰が相手だとどうだろうか。

 年上で、仕事における立場も上で、能力値でも有紗には何一つ勝るものはなかった。最近では唯一自分が優位に立っていられた私生活ですら、慶汰は完璧にこなしてしまう。

(大樹の言う通りかもしれない……。慶汰さんといると私、いつも余裕がない気がする)

 自分自身が気付かなかった気持ちに、大樹は先に気付いていた。

 無言のまま考えを巡らせている有紗に、大樹は追い打ちをかける。
 
「……今すぐに決めろなんて言わない。だけど、ちゃんと考えてほしい。俺、有紗のことやっぱりまだ好きだから諦められないし」
「っ……」
「俺なら絶対有紗を不安にさせないから」

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