スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
 大樹の告白は素直に嬉しかったし、きっと大樹となら上手くいくと感じた。実際に二人が付き合っている時、有紗が大樹に対して不安に思ったこともなかったからだ。
 
(だけど……)

「ありがとう。でも、大樹の気持ちには応えられないよ」
「……どうしても?」
「うん、どうしても。だって――」
「有紗」

 有紗が何かを言いかけた時、すぐ後ろから呼び止められる。振り返ると、慶汰が肩を揺らしながら近づいてきて、有紗の腕を掴んだ。

「えっ、なんで……?」
「俺もちょうど帰りだったから。……羽鳥さん、わざわざ送っていただいてありがとうございます」

 慶汰は大樹に真っ直ぐと視線を向け、丁寧にお礼を伝える。大樹は思わず怯んでしまったが、「いえ」と小さく返事をした。

 そのまま慶汰は力強く有紗の腕を引き、自宅に向けて歩みを速めた。



 大樹と別れたあと、程なくして慶汰の家に到着する。道中何か話したかったけれど、慶汰が纏う空気が明らかにいつもと違っており、有紗は戸惑っていた。

 帰宅するなりスーツを脱いで、ソファに腰を下ろした慶汰に、有紗は意を決して話しかける。

「……ねえ、なんか怒ってる?」
「べつに。ただこんな時間に元彼と二人きりでいるところを見たら、連れて帰りたくもなるさ」
「っ、ごめん。でも、さっきまではゆかりも一緒で――」
「いいよ、怒ってるわけじゃない。同期を大事にしろって言ったのは俺だし、有紗のこと疑ってるわけじゃないから」

(嫉妬した、とかではないんだ……)

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