あなたに嫌われたいんです
「そ、そういえば聞いたんですが、今までたくさんお見合いをしてきたけど、理人さんどれも断ったらしいじゃないですか!」

「ああ、そうでしたね」

「きっと素晴らしい人ばかりだろうに、なぜ断ったんですか?」

「うーんなんでだったかなあ」

 忘れるわけがないのに、彼は腕を組んで考え込んでいる。さては、ごまかそうとしている?

 何かがおかしい、噛み合わない。これだけ顔がいい金持ちで、お見合いも断り続ける男が、私との結婚に前向きだなんて。

 少し考えた挙句、理人さんは首を振って言った。

「昔会った女性のことなんて忘れました。
 それより、京香さんとのこれからの話をしましょう」

「え」

「婚約者としてうちに来たんですよね? これから二人の生活です。でも、まだ初対面ですし、まずは同棲というより同居のようにやっていきましょう。お互いをちゃんと知らないと」

「……」

「僕のことも知ってください。あなたも、気を遣わず自由に暮らしてくれればいい。一緒に暮らしていけば、誤魔化しなんてききませんから」

 私は笑顔を浮かべることなく、その言葉にうなずいた。

「わかりました。気を遣わず、やりたいようにやっていきます」

「そうしましょう。京香さんの部屋、案内しますね」

 そういって理人さんは、私の荷物をもって立ち上がった。今度は遠慮はしなかった、荷物は持ってもらって当然という顔をしておく。

 リビングを出てすぐ右手の扉、そこが私の部屋のようだった。理人さんが開けて中に足を踏みいれる。それを見渡し、つい後ずさってしまいそうだった。

 広々とした個室。新品とみられるベッドに、白いシーツが敷いてあった。部屋の奥は大きな窓、その下にはドレッサーが置いてある。すでに化粧品が並べられている。しかも、ブランドものばかりだ。薬局で買えるような安い化粧品しか使っていない私には、刺激が強い。

 私のためにここまで揃えてくれた? 
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