あなたに嫌われたいんです
 傾いていた会社は確実に軌道に乗ってきている。正直、私ではなくほとんど八神社長と理人さん、そしてみんなの力だ。労働環境は改善されたし、給与も安定してきている。冬のボーナスも大分奮発できたのでよかったと胸を撫でおろした。仕事も増えてきているので、少し人手を増やしてもいいかもしれない、という話も出てきているところだ。

 もちろんまだ半年のことだし、八神の力があってこそ。これから自分たちだけの力で長くやっていくには、問題は山積みだ。油断せずにいかねばならないと自分を戒める。

 会社も安定してきているので、理人さんもまた八神での仕事に戻っている。時々こちらに顔を出し、さまざまな問題をチェックしてくれている、という形で落ち着いていた。





 すっかり寒くなった駅前で一人、理人さんを待っていた。仕事も上がり、明日は休みだ。出張で三日離れていた理人さんと早く会いたくて、そわそわしながら待つ。

 もう半年も一緒に暮らしているのに、未だ彼にハマり続けている。まあ、毎日お互い忙しく、共にする時間が少ない、というのもあるのだが。

 手と手をこすり付け寒さをごまかしていると、背後から明るい声が聞こえた。

「あっれー! 京香じゃん!」

 振り返ってみると、朋美がたっていた。黒いコートをなびかせ、私に手を振っている。思っても見ない偶然に、私はテンションを上げた。

「朋美! 偶然!」

「何してんのこんなとこで?」

「あ、えっと、理人さんが出張から帰ってくるから……」

 なんとなく恥ずかしくなってそう答えると、朋美はにやにやと表情を緩めた。事の真相をすべて話した後、理人さんを紹介までしている彼女は、今でもよき理解者だ。

「いいねえーイケメンを待ってる間は冬でも心ポッカポカですか!」

「言い方がおじさん」

「いや、京香に教えてもらって実際会った時は飛び上がったもんな。あんな高スペックイケメンいないって、羨ましい限りだわ。私が変な助言したことで二人がこじれてたのが本当申し訳なかった」

 慌てて否定する。

「朋美は私の悩み聞いてくれてただけで悪くないから!」

「そう? まあ、今幸せそうだからまだよかったよ。結果よければすべて……あ、あれじゃん?」

 朋美が何かに気づき、指をさした。駅から大勢の人混みが出てくる中、頭が飛び出してる高身長。三日ぶりに見る理人さんだった。朋美はさらににやにやしながら私に小声で言う。

「顔に喜びが漏れてますよー?」

「うっさいな」

「幸せそうで何よりですわ、あはは」

 揶揄うように、でも嬉しそうに言ってくる朋美に、つい私も笑ってしまった。そうこうしているうちに理人さんがこちらに気づき駆け寄ってくる。顔を綻ばせ、口から白い息を出しながら言った。
< 101 / 103 >

この作品をシェア

pagetop