あなたに嫌われたいんです
『私はそういうところ好きだよ。でも、男にはちょっとね、ってこと。
 あれ? そう思えば、やっぱり大丈夫なんじゃない? きっと理人さんもそのうち、その強さについていけなくなるって』

 朋美がそう言ったのを聞いて、確かに、と納得してしまった。

 この人生男にはモテなかった。付き合った彼氏にも振られてばかりだったし、私はきっと根本的に男から嫌われる女なのだ。

 じゃあ、大丈夫なのかも。このまま一緒に暮らしていけば、理人さんもすぐに音を上げるかも!

「そうだね、もうちょっと時間をかけてやっていけば、絶対結婚までたどり着かないよね!」

『うんがんばれ! 私も協力するから。あ、弟に『結婚したくない女の特徴』なるものを聞いておいた、あとで送る』

「神か」

『頑張って。
 いくらイケメンの金持ちでも、京香が好きでもない男と結婚するのは私嫌だから』

 少し低くなったトーンで朋美が言った。私はそっと微笑む。

 私の一番大事な友人が、心配してくれているのは素直にうれしい。彼女は私の会社だとかそういうことではなく、いつでも私自身のことを考えてくれるのだ。

「ありがとう」

 そう心の底からお礼を言った。




 少ない荷物を整理し、意を決して部屋から出た。豪華な部屋に、自分が持ってきた荷物は明らかに浮いていた。服だってほとんど安物ばかりで、広すぎるクローゼットの中にちょこん、と掛けられているだけだ。肌が弱い、と言ったくせに、化粧品は安物ばかり。見えないようにちゃんと引き出しに入れておく。

 あとはお母さんと写ったアルバム。梨々子たちには見つからないよう、いつもベッドの下に隠しておいたものだ。ここでは捨てられる心配がないことだけはいい。

 リビングへ向かってみると、理人さんがテレビを眺めていた。私の気配に気が付きこちらを見る。テレビの電源を落とし、微笑みかけてくれた。正直、かっこいい。

「終わりましたか」

「ええ」

「足りないものも多いでしょうから、明日にでも買いに行きませんか」

「は、はあ。いいですけど」

 どこに座っていいのか分からず、やや困る。そんな私に気づいたのか、理人さんはさりげなくソファの端に座りなおした。私は近づき、離れたところに座る。

 彼は私の顔を覗き込む。

「疲れてますか?」

「え? ああ、まあ少し」

「初日ですもんね。ゆっくりしてください。ただ最初にいくつか話し合いをしなくてはと思って」

「話?」

「ええ、一緒に暮らすわけですから、色々ルールは決めておかないと。基本キッチンも自由に使ってもらっていいですし、あっちは物入で色々なストックが入っています」
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