あなたに嫌われたいんです
これまでの話を全部説明しようとすると、長い時間を要するだろう。
私の半生を思い出すことになる。前半は幸せ、後半は不幸そのものだった私の人生だ。
今から二十五年前、私は五十嵐家に長女として誕生する。
母は仕事も育児もきちんとこなせる、強い人だった。笑顔を絶やさず、時に厳しく時に優しく、私に生き方を教えてくれる人だった。
母は、祖父が立ち上げた会社を継いでいた。そこまで大きい会社とは言えなかったが、祖父が大事に大事に成長させてきた会社だ。祖父から教わったことを活かしつつ、誠意をもって仕事をこなしていた。
父を婿養子として迎えた後も、母を中心に会社は経営されていた。どうも父は、社長としての技量はなかったらしい。裏で母を支える方がずっと向いているタイプだったのだ。祖父も亡くなり、二人で会社を守ってくれていた。
『仲間たちには優しさを持って、仕事相手には誠意を持って』
それが、母の口癖だった。
彼女は、私が高校一年生に上がった時、交通事故で急死する。
それはそれはショックで、私はずっと泣いていたのを今でも思い出せる。
葬儀の時の記憶もあやふやだ。励ましてくれるクラスメイトの言葉も思い出せない。何日も泣き続けて、いつのまにか時が過ぎていた。
ここから、私の人生は大きく狂い始める。
まず、母が亡くなって半年後、父がある女性を連れてきた。再婚相手に、というわけだ。
まだ母が亡くなってそんなに経っていないのに、と激怒しようとして、私は言葉を失くした。
私と年が二つしか離れていない妹を連れてきたからだ。
頭の中はクエスチョンマークでいっぱい。算数すら出来なかった。
ああそうか、新しい母の連子か。そう納得しようとして、妹から言われる。
『やっとお父さんとずっと暮らせるね! 今までは時々帰ってくるだけだったから』
私は嘔吐した。
父はずっと外に浮気相手を作っていたのだ。それも、子供まで。
母が亡くなって、ここぞとばかりにうちに入り込もうとしている。
そんなこと、賛成できるはずがなかった。激怒して叫び、父を責め続けた。
私を宥めようと必死になっていたが、いつまで経っても私は再婚に賛成しなかった。そこで父も苛立ち、私の許可なしで再婚に踏み切った。
これみよがしに、新しい妻と妹ばかりを可愛がり、私は家で完全に浮いていた。次第に食事も準備されず、妹は勝手に部屋に入って私物を荒らし、目の前で悪口を言われ続けた。
屈しなかった。そんな根性が腐った奴らに、私は負けたりなんかしないと強く自分を持っていつも前を向いていた。
大学に進学し経営学を学んだ。頭がお花畑になった父が学費さえも払ってくれなくなったらどうしようかと思っていたが、流石にそこは大丈夫だった。それもそうだ、普通に考えて父の次は私が会社を継ぐはず。知識がなくては会社の経営なんて務まらない。
遊び回る人たちの中で、一人がむしゃらに勉強した。ちょっと周りはひいていたように思う。一度だけ飲み会みたいなのに参加したけれど、周りのテンションに全然ついていけなかったのを覚えている。
母が亡くなったことにより父が正式に会社を取り仕切るようになったのだが、彼は経営の能力がとことんなかった。今まで母の隣で何を見てきたのだ、と呆れるほどに。
さらには、新しくできた家族にいいところを見せたかったのか、自分の利益ばかり考えるようになり、一家は贅沢三昧を始める。社員たちには無理難題を押し付け、残業させ、給与は出し渋った。ずっと働いてきてくれていた優秀な社員たちは、どんどん離れていき悪循環となった。
私が大学を出て自分の会社に入社する頃、すでにかなり経営が傾いていた。