あなたに嫌われたいんです
理人さんは気にするそぶりを見せながらも、諦めたようにキッチンへ入った。お湯を沸かしティーカップを準備する音が聞こえる。私はその隙に、いまだリビングで立ったままきょろきょろしている梨々子に近づき、小声で言った。
「何しにきたの」
私の問いに、彼女は振り返りにやっと笑った。声を潜め、どこか馬鹿にしたように言った。
「こんな優良物件逃がす手はないでしょ? お姉ちゃんは捕まえられなかったんだね、残念」
「散々理人さんと結婚する私を笑ってたじゃない!」
「若くてこんなイケメンって知らなかったんだもん、知ってたら私が代わりに結婚したのに。私なら上手くやれると思うんだよね、とりあえずラインの交換だけはしとこうと思ってー」
やっぱりそれが目的か。分かり切ってたことだがいら立ちが酷い。掴みかかってしまいそうなのを必死にこらえた。
「帰って。彼と今から仕事の話がある」
「私も五十嵐の人間なんだから、同席してもいいじゃない」
「まだ会社に入ってもないじゃない!」
「将来的には継ぐもん。あ、理人さんと結婚したらお姉ちゃんに譲るけどね!」
「お願いだから帰って。私も少ししたら帰るから。お願いだから!」
必死に懇願する。あまりに必死な私を見て、梨々子は面白そうに笑った。口元を手で押さえ、見下すように言う。
「分かってるよ、お姉ちゃん本当は理人さんと結婚したかったんでしょ? でも、向こうに振られちゃって、何とか結婚できないか今から最後の悪あがきするつもりなんでしょ。誘惑でもするつもり?」
カッとなり顔が熱くなる。なおも梨々子は続けた。
「てゆーかいなくなってほしいのはこっちなんだけど。お姉ちゃんがいなかったらなんとでもなるのに。既成事実作ればこっちのもんっていうかさ」
「彼はそんな軽薄な人じゃない」
即座に言い返してしまう。だが、ぷっと笑われた。
「彼って! 振られた分際で彼女みたいなこと言ってる。あ、そっかもう誘惑済み? 失敗したのかあ、なるほどねー残念だったね? ま、私が結婚したら会社継ぐのは譲るからよかったじゃん」
あんまりな侮辱に言い返そうと口を開けたとき、背後から声がした。
「京香さん!」
二人で振り返ると、理人さんが立っていた。なんだか驚いたような、困っているような不思議な表情をしていた。その顔に疑問を持ち、返事を返そうとするも、それより先に梨々子が彼の元へ駆け寄った。
「あ、理人さーん! ごめんなさい、私よくお姉ちゃんに叱られるんです! 大丈夫ですよ、仲悪いわけじゃないんで……お姉ちゃんも怒ると怖いけど、別に普段は優しいから」
梨々子がフォローするように言って、もしや私が梨々子に辛く当たっているように見えたのか、と理解した。確かにすごい形相をしていた自覚はある。梨々子はぱっと見ふわっとした女の子らしい子なので、私の強さが引き立つのかもしれない。
理人さんは戸惑いながら言う。
「いえ、そうではなく……」
「よければお茶淹れるの手伝います!」
梨々子に背中を押され、困ったように理人さんがこちらを見てくる。私は視線を落とし、早口で言った。
「私は荷物をまとめてきます。お茶は結構です」
もう嫌な女の演技は必要ないというのに、私はそんな冷たい言葉を言った。そしてそのまま、理人さんの顔を見ないままリビングから出た。
「何しにきたの」
私の問いに、彼女は振り返りにやっと笑った。声を潜め、どこか馬鹿にしたように言った。
「こんな優良物件逃がす手はないでしょ? お姉ちゃんは捕まえられなかったんだね、残念」
「散々理人さんと結婚する私を笑ってたじゃない!」
「若くてこんなイケメンって知らなかったんだもん、知ってたら私が代わりに結婚したのに。私なら上手くやれると思うんだよね、とりあえずラインの交換だけはしとこうと思ってー」
やっぱりそれが目的か。分かり切ってたことだがいら立ちが酷い。掴みかかってしまいそうなのを必死にこらえた。
「帰って。彼と今から仕事の話がある」
「私も五十嵐の人間なんだから、同席してもいいじゃない」
「まだ会社に入ってもないじゃない!」
「将来的には継ぐもん。あ、理人さんと結婚したらお姉ちゃんに譲るけどね!」
「お願いだから帰って。私も少ししたら帰るから。お願いだから!」
必死に懇願する。あまりに必死な私を見て、梨々子は面白そうに笑った。口元を手で押さえ、見下すように言う。
「分かってるよ、お姉ちゃん本当は理人さんと結婚したかったんでしょ? でも、向こうに振られちゃって、何とか結婚できないか今から最後の悪あがきするつもりなんでしょ。誘惑でもするつもり?」
カッとなり顔が熱くなる。なおも梨々子は続けた。
「てゆーかいなくなってほしいのはこっちなんだけど。お姉ちゃんがいなかったらなんとでもなるのに。既成事実作ればこっちのもんっていうかさ」
「彼はそんな軽薄な人じゃない」
即座に言い返してしまう。だが、ぷっと笑われた。
「彼って! 振られた分際で彼女みたいなこと言ってる。あ、そっかもう誘惑済み? 失敗したのかあ、なるほどねー残念だったね? ま、私が結婚したら会社継ぐのは譲るからよかったじゃん」
あんまりな侮辱に言い返そうと口を開けたとき、背後から声がした。
「京香さん!」
二人で振り返ると、理人さんが立っていた。なんだか驚いたような、困っているような不思議な表情をしていた。その顔に疑問を持ち、返事を返そうとするも、それより先に梨々子が彼の元へ駆け寄った。
「あ、理人さーん! ごめんなさい、私よくお姉ちゃんに叱られるんです! 大丈夫ですよ、仲悪いわけじゃないんで……お姉ちゃんも怒ると怖いけど、別に普段は優しいから」
梨々子がフォローするように言って、もしや私が梨々子に辛く当たっているように見えたのか、と理解した。確かにすごい形相をしていた自覚はある。梨々子はぱっと見ふわっとした女の子らしい子なので、私の強さが引き立つのかもしれない。
理人さんは戸惑いながら言う。
「いえ、そうではなく……」
「よければお茶淹れるの手伝います!」
梨々子に背中を押され、困ったように理人さんがこちらを見てくる。私は視線を落とし、早口で言った。
「私は荷物をまとめてきます。お茶は結構です」
もう嫌な女の演技は必要ないというのに、私はそんな冷たい言葉を言った。そしてそのまま、理人さんの顔を見ないままリビングから出た。