あなたに嫌われたいんです
「え? あ、あの?」
「はい」
「八神理人さん?」
「そうです」
頭は混乱の絶頂だ。そんな私を、彼は不思議そうに見ている。出だしから予想外のことが起こりすぎて、すでにキャパシティがオーバーだ。
「あ、荷物持ちますよ」
理人さんはそう言って私の手から鞄を取った。ハッとして慌てる、私の手汗がふんだんにしみ込んだ古い鞄だ。
「あ、だ、大丈夫です!」
「これくらいさせてください。上がって」
結局荷物を持たせてしまった、あんなかっこいい人に、私の鞄を。
とりあえず言われるがまま靴を脱ぎ、置いてあったスリッパを拝借した。ふわふわした履き心地で、スリッパでも高級なものはわかるんだなと感心する。
「リビングはこっちです、というか荷物軽いですね……ああ、後で宅配で届きますか?」
「い、いいえ、それで全部です」
「えっ?」
驚いたようにこちらを振り返る。確かに、女が移住してくるのに、鞄一つじゃ荷物は少ないか。でもしょうがない、梨々子たちが来てからは、新しい物なんて自分で買うしかなかったし、会社からの給料は少なかったし。
「あの、それより自分で持ちますから……」
「そんな遠慮しないでください」
そう笑いかけられて、ようやく自分の使命を思い出した。
しまった、結婚したくないと思われる女にならねばならないんだった! 男前パワーでそんなことも忘れてしまっていた。
一旦咳ばらいをする。そしてにっこり、笑って見せた。
「ではお言葉に甘えます。荷物はね、いらないものは持ってこなくていいかなーと思ったんです。だって、新しく買ってもらえばいいかと思って」
どうだ、渾身の一撃! クリティカルヒットではないか?
つまり、『あなたのお金をいっぱい使う気満々ですよ』ってことだ。初対面でこの発言はないだろう、まだ結婚もしてないのに、金目当てであることがまるわかりだ。普通の人間ならば不快に思うこと間違いない。もしかして、この一言だけで追い返されるかも。
私の発言を聞いて、理人さんがくるりと振り返った。彼と目が合い、やや胸が鳴る。一体どんな嫌悪の顔を出してくるかと身構えると、彼は小さく笑ったのだ。
「はい」
「八神理人さん?」
「そうです」
頭は混乱の絶頂だ。そんな私を、彼は不思議そうに見ている。出だしから予想外のことが起こりすぎて、すでにキャパシティがオーバーだ。
「あ、荷物持ちますよ」
理人さんはそう言って私の手から鞄を取った。ハッとして慌てる、私の手汗がふんだんにしみ込んだ古い鞄だ。
「あ、だ、大丈夫です!」
「これくらいさせてください。上がって」
結局荷物を持たせてしまった、あんなかっこいい人に、私の鞄を。
とりあえず言われるがまま靴を脱ぎ、置いてあったスリッパを拝借した。ふわふわした履き心地で、スリッパでも高級なものはわかるんだなと感心する。
「リビングはこっちです、というか荷物軽いですね……ああ、後で宅配で届きますか?」
「い、いいえ、それで全部です」
「えっ?」
驚いたようにこちらを振り返る。確かに、女が移住してくるのに、鞄一つじゃ荷物は少ないか。でもしょうがない、梨々子たちが来てからは、新しい物なんて自分で買うしかなかったし、会社からの給料は少なかったし。
「あの、それより自分で持ちますから……」
「そんな遠慮しないでください」
そう笑いかけられて、ようやく自分の使命を思い出した。
しまった、結婚したくないと思われる女にならねばならないんだった! 男前パワーでそんなことも忘れてしまっていた。
一旦咳ばらいをする。そしてにっこり、笑って見せた。
「ではお言葉に甘えます。荷物はね、いらないものは持ってこなくていいかなーと思ったんです。だって、新しく買ってもらえばいいかと思って」
どうだ、渾身の一撃! クリティカルヒットではないか?
つまり、『あなたのお金をいっぱい使う気満々ですよ』ってことだ。初対面でこの発言はないだろう、まだ結婚もしてないのに、金目当てであることがまるわかりだ。普通の人間ならば不快に思うこと間違いない。もしかして、この一言だけで追い返されるかも。
私の発言を聞いて、理人さんがくるりと振り返った。彼と目が合い、やや胸が鳴る。一体どんな嫌悪の顔を出してくるかと身構えると、彼は小さく笑ったのだ。