あなたに嫌われたいんです
もうだめだ、と一人で泣いた。
頭がごちゃごちゃで、感情が爆発しそうだった。自分が今どうしたいのか、なぜ泣いてるのかすらよく分からない、それぐらいすべてが上手くいかなくて、神様を恨んだ。
会社についても、理人さんのことについても、全部思う方とは反対の方へ進んでいく。
梨々子がいるこの家の中で理人さんと話すのはさすが無理だろう。絶対邪魔してくるだろうし、中途半端に話すくらいなら今は辞めておいた方がいい。
電話とか……昨日から繋がらないけど、できるだろうか。家を訪ねたとして、彼は会ってくれるだろうか。なんとかもう一度だけ話したい。
ふらふらしながら、ここにやってきた日と同じように鞄一つを手に持つ。結局化粧品などは全部置きっぱなしだ。廊下に出ると、リビングから明るい声が聞こえてくる。私は理人さんと楽しく話しながらお茶をすることなんてなかったのに、と思ってしまう。
私がリビングに入ると、紅茶を飲んでいた梨々子がわざとらしく言った。
「ええ? お姉ちゃん荷物それだけえ?」
あんたが私の私物を取っていったんでしょうが、と言い返す元気はなかった。理人さんは立ち上がり、私に言う。
「先日買ったもの達は、届き次第あなたに送ります」
「えー! お姉ちゃんなんか買ってもらったの? 結局結婚もしないのに図々しくなーい?」
「ありがとうございますよろしくお願いします。梨々子、行こう」
私は低い声で言った。梨々子は仕方ないとばかりに立ち上がると、理人さんに声を掛けた。
「あの! もしよかったら、ライン交換しませんか? これから会社ぐるみでお付き合いするんですし、お世話になりますから……」
背中でその言葉を聞き、耳を澄ませる。理人さんが何ていうか気になって仕方ないのだ。
彼は静かに言った。
「実は今、スマホを壊してしまって手元にないんです。仕事用のものだけあるんですが、プライベートのものはなくて」
そう耳に入ってきたとき、二つの意味でほっとした自分がいた。梨々子と個人的に連絡先を交換しなかったこと、そして、昨晩からずっと電話しても繋がらなかった理由が分かったからだ。ラインが既読にならなかったのも、それが原因?
梨々子は残念そうに声を出すも、諦めずメモに自分の番号やIDを書いて手渡しているようだった。私は何も言わずにただ立ち尽くしている。
少ししてようやく梨々子もこっちにやってきて、私を通り越した。そして振り返り、ニコッと私に笑いかけた。私の手から荷物を取る。
「お姉ちゃん持ってあげるね!」
私は一度手元から離れたそれを、すぐに奪い返した。梨々子に荷物なんか手渡してもろくなことにならないのが分かってる。数少ない持ち物がまた少なくなるだけだ。
「別にいいから」
「冷たい~手伝おうとしただけなのに」
頬を膨らませる。ああきっと、優しい妹と意地の悪い姉に見えるんだろうな、と分かっていた。でも嫌な自分が止められない。