あなたに嫌われたいんです
「そううかがっています。でも、私は知ってます。昔うちの祖父が、あなたのお父様のプライドを傷つけてしまったということ。それで、徹底的にうちを潰すつもりだったんでしょう? こういうタイミングをずっと狙っていたんでしょうか。買収の話をなしにして援助し、勝手につぶれていくのを待って……」

「ちょっと待ってください」

 話の途中で、理人さんが慌てたように口をはさんだ。そして混乱するように言う。

「まるで話が読めません。あなたの会社を潰すつもり? なぜそんなことになってるんですか。援助するのが、どうしてそんな方向に?」

 彼は本気でそう疑問に思っているようだった。そこで私はようやく、噛み合わない反応にあれっと思う。

 理人さんが演技をしているようには見えない。

「うちを古くから知っている方が教えてくださったんです。昔、祖父は八神の会社で、お父様に向かって経営について叱咤したことがあると。それまで仕事を貰っていたのに、それ以降切られたみたいですし」

「えっと……まあ、そういった過去があったことは違いありません。ですが、いや、それは置いておきましょう。
 そうだとして、なぜ援助するのがあなたの会社を陥れるということに?」

「え? だって、私の父は目先の利益しか考えられない、バカみたいな経営しかできないから……祖父と母が苦労して築いた会社は一気に傾いて、優秀な人材も仕事相手もどんどんいなくなってもう後戻りはできない状況で」

「なんですって?」

 理人さんの驚いた声がした。彼は表情を険しくさせ、すっと立ち上がった。私もそれに続きようやく二人で床と離れた。理人さんは怖いくらいの表情で続きを促した。

「それで?」

「え? だから……買収される話がなくなって、父の経営が続くとなれば、うちの会社に未来はないんです。それを分かって援助の話を申し込んだのでは?」

「仮にそうだとしても、もうどうしようもないところまできたら、また買収の話が浮上する可能性もあるではないですか」

「その時、私を理由にうちと揉めるのかと……私は散々我儘言ってきたし、婚約を破談にするか、結婚した後もすぐ離婚する。八神グループと揉めたとなれば、買収したい会社もなくなるだろうし」

「ちょっと待って」

 理人さんは頭を抱えて、混乱しているようだった。顔をしかめ、必死に物事を整理しているようだった。その様を見ただけで、彼にとって今私が話した内容はまるで見当違いな話だったのだと気づく。
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