あなたに嫌われたいんです
頭の中で必死に考えていると、突然場違いな明るい声が響き渡った。
「おおー! その人が五十嵐京香さん! いやあやっとお会いできましたな、いやいや可愛らしいお人だ。どうぞどうぞ腰かけてください!」
「へ」
ニコニコしてこちらに近づいてくる。思っていた反応と大分違って拍子抜けした。第一印象とは全然違う、好意的な……よくいるおじさんって感じなのだ。
「あ、あの、初めまして、五十嵐京香です……」
「初めまして、いや今回は無茶苦茶な話を持ち掛けてすみませんでしたね。驚かれたでしょう。なかなかタイミングも合わず会えなくて」
「は、はあ……」
「ささ座って座って!」
ぽかんとしている私はソファに促され、理人さんと二人腰かけた。社長は正面に座り、笑顔で私のことを見ている。まるで、久しぶりに会った親戚のおじさんみたいな反応。
理人さんは淡々と言った。
「父さん。どうやら、僕たちは色々勘違いしてたみたいだ」
「は?」
「まずは、過去について。孫である京香さんには、どうも歪んで事実が伝わってる。父さんが五十嵐の会社をひどく恨んでる、って」
「はあ??」
社長は本当に、わけが分からない、という顔をした。私は息をのんで二人の会話を見守っている。
八神社長は私の方を見て、ずいっと前のめりになった。そして真剣な面持ちで言う。
「おじいさんからその話を?」
「い、いえ、私はうちの会社とそちらの会社が仕事をしていたことすら知りませんでした。最近、祖父の昔からの仕事仲間に聞いて……」
「ああ、なるほど。第三者から見れば、多少勘違いされて受け取られているかもなあ」
社長はソファにもたれ座りなおす。そして懐かしむように目を細めて話した。