あなたに嫌われたいんです
「理人さん、落ち着いてください。京香から何かを聞いたんですね? この子は思い込みが激しいところもあるし、ここ最近家族もぎすぎすしていたので……京香、ちょっと二人で話そうか」
「京香さんだけではないですよ。社員みんなからも話を聞いています。録音してありますよお聞きになりますか? それに、奥様が亡くなられた後から、五十嵐家の羽振りがよくなったことも調べてあります」
理人さんは鞄からレコーダーを取り出して掲げた。父は顔を青くしぶるぶると唇を震わせている。
「いや、それは」
「現在の労働環境もひどいものですね。よくあんな状態で社員も頑張ってくれたものです。奥様は優れた経営者だったと、みんな口をそろえて言っていたのに、その才能が欠片でもあなたにあればね」
「待ってください」
「あなたは五十嵐から一切手を引く。これが援助を続行する条件です」
きっぱり言い放った。父はもはや顔面中汗をかいていた。
どう転んでも、父はもう経営していくのは無理だ。八神からの援助がなければ会社はもう無理だろうし、買収されるとしてももう自由にはなるまい。
父は震える声で言った。
「そ、そうか分かった。あんたらはうちの会社を乗っ取るのが目的だったんだな? そうはいかないぞ。私は絶対に今の立場をおりない。援助を切るならそれでいい、自分の力で会社を立て直す!」
そう高らかに宣言する。母と妹は、それをキラキラした眼差しで見つめた。二人とも、会社の現状をまるで知らないからだ。もう立て直すなんて無理な状態だと、なぜ分からない? 私は小さくため息をついてあきれるしかなかった。
理人さんは感心したように言った。
「では、うちは完全に手を引いても、何とか自分が経営していくおつもりですか?」
「そうだ、社員たちと頑張っていくさ。ここまでついてきた社員だ、これからも頑張ってくれるだろう! あ、言っておくが一度受け取った分は返さないぞ、勝手に条件を変えて手を引くと言ってたのはそっちなんだ」
「それは構いませんが……あなたが経営し続けると決まった途端、五十嵐は無くなりますよ」
「え?」
理人さんは鞄を取り出す。そしてそこから紙の束を取り出した。それをテーブルの上にぶちまける。父たちはそれを覗き込み、息をのんだ。
置かれた封筒たちには、すべて『退職願』の文字が書かれていたのだ。
「京香さんだけではないですよ。社員みんなからも話を聞いています。録音してありますよお聞きになりますか? それに、奥様が亡くなられた後から、五十嵐家の羽振りがよくなったことも調べてあります」
理人さんは鞄からレコーダーを取り出して掲げた。父は顔を青くしぶるぶると唇を震わせている。
「いや、それは」
「現在の労働環境もひどいものですね。よくあんな状態で社員も頑張ってくれたものです。奥様は優れた経営者だったと、みんな口をそろえて言っていたのに、その才能が欠片でもあなたにあればね」
「待ってください」
「あなたは五十嵐から一切手を引く。これが援助を続行する条件です」
きっぱり言い放った。父はもはや顔面中汗をかいていた。
どう転んでも、父はもう経営していくのは無理だ。八神からの援助がなければ会社はもう無理だろうし、買収されるとしてももう自由にはなるまい。
父は震える声で言った。
「そ、そうか分かった。あんたらはうちの会社を乗っ取るのが目的だったんだな? そうはいかないぞ。私は絶対に今の立場をおりない。援助を切るならそれでいい、自分の力で会社を立て直す!」
そう高らかに宣言する。母と妹は、それをキラキラした眼差しで見つめた。二人とも、会社の現状をまるで知らないからだ。もう立て直すなんて無理な状態だと、なぜ分からない? 私は小さくため息をついてあきれるしかなかった。
理人さんは感心したように言った。
「では、うちは完全に手を引いても、何とか自分が経営していくおつもりですか?」
「そうだ、社員たちと頑張っていくさ。ここまでついてきた社員だ、これからも頑張ってくれるだろう! あ、言っておくが一度受け取った分は返さないぞ、勝手に条件を変えて手を引くと言ってたのはそっちなんだ」
「それは構いませんが……あなたが経営し続けると決まった途端、五十嵐は無くなりますよ」
「え?」
理人さんは鞄を取り出す。そしてそこから紙の束を取り出した。それをテーブルの上にぶちまける。父たちはそれを覗き込み、息をのんだ。
置かれた封筒たちには、すべて『退職願』の文字が書かれていたのだ。