あなたに嫌われたいんです
父の視線が泳ぐ。黙っていた母が詰め寄った。
「噓でしょう?
もうあなたが退かなきゃいけないなんて、そんなの嘘よね?」
「パパ、何とかなるって言ってたじゃん!」
二人に体を揺すられるが、顔面蒼白のまま動けないでいる。そこに追い打ちをかけるように理人さんは続ける。
「とはいえ、突然職なしになるのも大変でしょう。うちから新しい職場を紹介しようと思っています」
「え?」
「F県にある工場です。人手が足りないので、明日にでも歓迎してくれると思いますよ。年齢的に見れば自分より若い上司だらけになるでしょうね、ちゃんと礼儀はわきまえてください。社宅もあるので、家族三人移ってみてはどうですか。給与ももちろん払いますよ、まあ無茶苦茶やってきた今とは比べ物にならないと思いますが」
「ふ、ふざけるな!」
怒りのまま立ち上がる。椅子が派手な音を立てて動いた。目を吊り上げ、ぶるぶると唇を震わせながら叫ぶ。
「俺はずっと五十嵐を経営してきた実力者なんだぞ! それを……自分より若いやつに使われるなんて、馬鹿にするな!」
「馬鹿になんてしていませんが。あなたの能力にふさわしい場所を紹介しようかと、親切心で申したまでです」
「そんなところに行くわけがない。いい、俺の経歴を見ればもっといいところがとってくれるはずだ。梨々子、大丈夫だ心配するな。きっと今ぐらいの生活は」
そう言った人物が、自分の父親だと思うのも恥ずかしくてたまらなかった。ため息をついて私は俯く。梨々子のポジティブ思考って、父譲りなんだろうな。
理人さんも半ば笑いながら言った。
「噓でしょう?
もうあなたが退かなきゃいけないなんて、そんなの嘘よね?」
「パパ、何とかなるって言ってたじゃん!」
二人に体を揺すられるが、顔面蒼白のまま動けないでいる。そこに追い打ちをかけるように理人さんは続ける。
「とはいえ、突然職なしになるのも大変でしょう。うちから新しい職場を紹介しようと思っています」
「え?」
「F県にある工場です。人手が足りないので、明日にでも歓迎してくれると思いますよ。年齢的に見れば自分より若い上司だらけになるでしょうね、ちゃんと礼儀はわきまえてください。社宅もあるので、家族三人移ってみてはどうですか。給与ももちろん払いますよ、まあ無茶苦茶やってきた今とは比べ物にならないと思いますが」
「ふ、ふざけるな!」
怒りのまま立ち上がる。椅子が派手な音を立てて動いた。目を吊り上げ、ぶるぶると唇を震わせながら叫ぶ。
「俺はずっと五十嵐を経営してきた実力者なんだぞ! それを……自分より若いやつに使われるなんて、馬鹿にするな!」
「馬鹿になんてしていませんが。あなたの能力にふさわしい場所を紹介しようかと、親切心で申したまでです」
「そんなところに行くわけがない。いい、俺の経歴を見ればもっといいところがとってくれるはずだ。梨々子、大丈夫だ心配するな。きっと今ぐらいの生活は」
そう言った人物が、自分の父親だと思うのも恥ずかしくてたまらなかった。ため息をついて私は俯く。梨々子のポジティブ思考って、父譲りなんだろうな。
理人さんも半ば笑いながら言った。