あなたに嫌われたいんです
「しかし、あなたの会社の団結力は凄い。これまで付いてきてくれたというのもすごいですが、全員京香さんを認めて応援してる。京香さんがこれまで頑張ってきた証拠ですね」

「いや、祖父や母が頑張ってくれたから……それに結局、理人さんに助けてもらってしまいました」

「僕があなたの力になりたかっただけ。
 一人で悩んでたんですね。何とかみんなを守りたいと。父親に掛け合ったり、こちらの支援を無くそうと奮闘したり、たった一人で頑張ってきた。
 でも約束してください。今後は、一人で背負わないで。頼りないかもしれないが僕は絶対あなたの味方なので、なんでも頼ってほしい」

 私は無言で彼を見上げた。まだ濡れたままの髪の毛の先端から、少しだけ水滴が垂れていた。その奥で、真剣なまなざしでこちらを見ている理人さんがいる。

 頼る。今まで、私はそういうことをしてこなかった。

 一人で立ちまわって、一人で考えて、一人で泣いた。でも、それは正しいことではない。これからは人に頼って、自分も荷物を減らすんだ。抱えてばかりじゃ何も解決しない。

 ゆっくり頷いた。

「はい。これからは絶対、隠さないです」

 私の返事に、彼は優しく笑った。

 だがすぐに、大きく伸びをしながら立ち上がる。

「今日はもう休みましょう。色々疲れたと思う。休息をとるのも大事な仕事だから。あー夕飯食べてないな、なんか適当に」

 そう言ってキッチンへ行こうとした彼の黒い服の裾を、私は反射的につかんだ。理人さんが振り返る。私を見下ろし、不思議そうに首を傾げた。

「どうしました?」

「あ、いえ……部屋、どうするのかな、って」
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