あなたに嫌われたいんです
半年後――



 その日は、外は冷え込みが厳しく、人々は寒そうに肩をすくめて歩いていた。

 やや年季の入った小さな建物。活気のある声が漏れている。人々が慌ただしく動き回るオフィス。キーボードをたたく音、電話が鳴る音、打ち合わせをする声。様々な音の中で、入り口の扉がガチャッと開いた。

「戻りました」

 低い声に振り返る。徳島さんだった。私は一旦ほかの社員と話していたのを止め、彼に声を掛けた。

「おかえりなさい! どうでしたか!」

 私の質問に、彼はにっと白い歯を出して笑った。そして手でピースサインを作る。

 わっとその場全体が活気に包まれた。

「やった! ついに!」

「さすが徳島さん!」

 私は徳島さんに駆け寄った。飛び上がりたいのをこらえ、笑顔で声を掛ける。

「やりましたね! 忙しくなりますね!」

「社長が根気強く頑張っていたおかげですよ。いや、本当忙しくなりますね!」

 みんなの士気がぐっと上がるのを感じた。私は拳を握りしめてガッツポーズをする。みんなと喜びを分かち合った後、一旦離れることを伝えると、そのまま廊下へ出る。そしてポケットからスマホを取り出し、理人さんに電話を掛けた。

 いくらかコールがあったところで、向こうが電話に出た。
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