気付けよ
「何でそんな顔するの? だって徹と行きたいんだもん。……ねぇ、いい加減気付いてよ」
「何をだよ?」
「ほら、全然気付いてないじゃん」
樹音は溜め息混じりにそう言った。

何か余計なことを言ってしまったのだろうか。一瞬にして樹音から笑顔が消えた。
訳がわからない俺は樹音を覗き込むと、樹音が繋いだ手にぎゅっと力を込めて立ち止まるから、つられて俺も足を止めた。

「今日、朝からドキドキしっぱなしだったんだよ」
突然樹音からそんな告白を受けた俺は、目を見張った。

「なんなら今週ずっとだよ」と続ける樹音に、「そんなの俺もだよ」と返す。
――今しかない。

「え?」
樹音が聞き返してきた。

「なんなら二年以上も前からずっとだ」
「嘘でしょ……?」
俺からの告白返しに、樹音は戸惑いの表情を見せた。

「お前似のうさぎ、すっげぇ可愛かった」
「……」
「……気付けよバカ」
樹音は薄く唇を開いて呆然と立ち尽くしていた。

「そういうことだから……初デートは、お前の好きなキングバッファローのライブってことで宜しくな」

俺は素早く言うと、急激に湧き上がってきた照れの感情を隠すことなく樹音を見つめた。





【完】

※最後まで読んでいただきありがとうございました。
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