気付けよ
「お前ら仲いいなぁ」
途中の駅から乗車してきた俺の中学時代の友人の直紀(なおき)が言った。今日のダブルデートを俺に提案した男だ。
直紀の隣には「華鈴(かりん)」と名乗った小柄な年下彼女が寄り添っている。

ダブルデートをすることになった原因(というか、俺からすればいいきっかけになったのだが)は、久しぶりに会った直紀に見栄を張って、彼女がいると虚言を吐いたことだ。しかも「すげぇ可愛い彼女」だと言った。
それを樹音に伝えると、ブツブツと文句を言っていたが、結局は引き受けてくれる優しいやつで、その上いつも以上に気合いの入った化粧で臨んでくれるような可愛いやつなのだ。
樹音が彼女だというのは嘘だが、可愛いというのは嘘ではない。

俺は樹音の肩を抱いて頭を撫で、仲の良さを直紀ピールしたが、勿論こんなことをするのも初めてだ。
告白する勇気はなかったのに、こんな大胆なことが出来る自分に驚いた。

だが、このチャンスを逃すまいと、樹音が今日の約束を承諾してくれた時点で、俺は決心していた。

泣いても笑っても、この関係を今日で終わりにする、と。

ライブチケットは、見返りの為ではなく、はなから樹音にあげるつもりだったものだ。樹音の驚く顔と喜ぶ顔が見たくて、ギリギリまで隠し持っていたのだ。
そこへ偶然にも、告白するいいきっかけとなりそうなこのチャンスが訪れた。

今日は勿論「彼氏のフリ」だが、俺は私情を挟みまくって、完全に「なりきる」と決めている。

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