気付けよ
突然樹音が俺から離れて駆け出した――と思ったら、次はうさぎを見付けたようだ。
これには控えめな華鈴も黄色い声を上げて樹音の後を追い、二人で柵の中を覗き込んでいる。

「中、入ろうよ」
俺は樹音に手を引かれて、ふれあいコーナーに入った。

「ひゃ~ん。可愛い過ぎる~」
樹音がその場にしゃがみ込むと、あっと言う間に数羽のうさぎに囲まれた。そしてその中の一羽を抱き上げた樹音が俺に目を向ける。

「徹、見てよ~。この子めちゃくちゃ可愛い~!!」
俺はうさぎを脅かさないようにゆっくりとしゃがんで、樹音が抱いたうさぎに顔を寄せた。

「ほんとだな。コイツすげぇ可愛い。……てか、何かお前にすげぇ似てねぇか?」
俺は見比べるように視線をうさぎから樹音に移した。

「……ち、近いよ」
樹音が頬を赤らめて小声で言うから、俺はその距離に気付いて視線をうさぎに戻す。樹音の顔の小さなほくろまでハッキリと見える程の距離だった。
動揺を隠すように「俺にも抱かせろ」と言って樹音の手からうさぎを掬い上げた。

「可愛いなぁ、お前。ちっこいからポケットに入りそうだな。一緒に帰るか?」
俺は心を落ち着かせる為に、うさぎに話しかけていたが、ふと視線を感じて振り向くと、樹音と目が合った。

「や、やだっ、返してよ。徹本当にやりそうだから怖いよ」
そんなことを言われ、あっという間にうさぎは樹音の腕の中に戻った。
樹音が優しい目をしてうさぎの背を撫でる様子をじっと見つめていると、不意に振り向いた樹音と視線が絡んだ。

「今日、ここにして正解だったな」
俺がそう言うと、コクリと頷いて笑顔を向けてくるから、堪らず樹音の頭を優しく撫でた。

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