気付けよ
「やっぱお前ら、羨ましくなるくらい仲いいな」
帰りの電車で、直紀は心底羨ましそうな顔で俺に言った。恥を掻かないで済んだのは、付き合ってくれた樹音のおかげだ。

樹音と一緒に車内から手を振って、直紀と華鈴を見送った。

二人とは別れたが、俺は樹音と繋いだ手を離したくなくて、素知らぬ顔をしていた。
「疲れたか?」と聞いてみると、樹音は「遊び疲れた」と照れ笑いを見せた。
「起こしてやるから寝とけよ」と言うと、樹音は頷いて俺の肩に頭を乗せた。

あぁ、ずっとこのままでいてぇ……
そんなことを思いながら、俺は寄りかかる樹音の温もりに安心感を覚えた。

人見知りな樹音だから、初対面の二人と長時間過ごして、きっとすげぇ気疲れしただろう。樹音をひとりにしないように、離れないように、離したくなくて……ずっと手を繋いでいた。
俺は勝手にすげぇ幸せな気分だったが、樹音はそんな俺を鬱陶しく思っただろうか。
樹音の気持ちがすげぇ気になった。

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