俺様社長は純情な田舎娘を溺愛する
次の日、
翔さんはデニムに暖かそうなブルゾンパーカーを着て、爽やかにやって来た。
きっと、こちらに来る前から収穫を手伝うつもりで、用意してきたんだと思うと嬉しく思う。

日差しは暖かく昨日より風は穏やかでホッと肩の力を抜く。

「東京もんが、みかんの収穫なんて出来るだか?」
アルバイトのおじいちゃん達は心配する。

「またイケメンが来たなぁー。
こりゃ高い所はお兄さんに任せられるなぁ。 果穂ちゃんもいい男を捕まえたもんだ。」
おばあちゃん達は色めきたって囃し立てる。

「いつも果穂がお世話になっています。
堀井翔と申します。今日は一日よろしくお願いします。」
翔さんは、手土産も一緒に爽やかに挨拶をしたものだから、皆んなに直ぐに受け入れられて飴やらガムやら色々もらってワイワイ楽しく仕事が始まる。

「翔さん、耳寒くないですか?
このニット帽良かったら使って下さい。」
去年兄の為に編んだニット帽を翔に貸してあげる。

「果穂が編んだのか?凄い完成度。これ、お兄さんの?」

「はい、去年クリスマスにあげたんですけど、お兄ちゃん暑がりであんまり使ってくれないんです。タンスに眠ってたから持って来ちゃいました。」

「大丈夫か、怒られない?」
そんな話しをしながら紺のニット帽を被せてあげる。翔さんのサラサラの髪の毛が手に触れて、ちょっと照れる。

「おい、果穂。
俺に断りも無く何貸してるんだよ。
果穂がせっかく編んでくれたから、大事に取って置いただけだよ。」
兄がツカツカと近付いてきて抗議する。

「あっ、お兄さんおはようございます。
返しますよ、大事な帽子なら。」
翔さんがニット帽を取ろうとすると、

「お前は敬語禁止!歳上のくせにお兄さんって呼ぶな。仕方ないから貸してやるよ…。」
兄は採りかごを抱えて去っていく。

「いいんだ…。」
意外だと2人顔を合わせて笑う。

「お兄さんは普段なんて呼ばれてるんだ?」

「お友達からは、りょうとかりっくんとか呼ばれてますよ。」

翔さんは何をやっても器用で上手にこなす。
私が脚立に登らないと届かないみかんも、楽々採ってくれるから普段より倍、楽で仕事もはかどった。

しかも、おばあちゃん達が採ったみかんも率先して運ぶから、たちまち大人気だった。

お昼休憩で家族みんなとお弁当を食べた時、
翔さんが年末に東京に来ないかと誘ってくれた。

それを聞いてた父がなぜか喜びお正月まで行っておいでと大賛成してくれた。
兄は、ずっと不服そうに翔さんに愚痴ってたけど…。

夕方近くまで収穫を手伝ってくれた翔さんは、6時の新幹線で東京に帰って行った。

次会う予定があるから寂しくない。
と、自分に言い聞かせて笑顔でまた今度。と、手を振ってお別れが出来た。
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