俺様社長は純情な田舎娘を溺愛する
定時の午後6時、

何事も無く帰れそうで内心ホッとしながら机の上を片付ける。

「本当に定時で帰られるんですね!」
新田は驚き、机を片付ける俺に目線を送り、
今まで定時で帰った社長を見た事が無かったと、呆然とし、お疲れ様でしたの一言を失念してしまうほどだ。

「後はよろしく、何があればメールで。」
そう言い残して、俺は颯爽と部屋を出て行く。

定時で帰る社員達と共にエレベーターに乗り込む。

「お疲れ様です…。」

女子社員達が、若干引き気味に挨拶をしてくるが気にも留めない。

しかしその中で勇気ある1人の女子社員が俺に話しかけてくる。
「社長、今日はもうお帰りですか?」

「ああ、この後用事があるから。」

「社長は明日の忘年会、来られ無いんですか?」

「俺が居ない方が楽しめるだろ?
副社長が行く筈だから彼に愚痴は伝えといて。」
女子社員を見る事なく、降りていく階数表示を見つめながらそう話す。

「残念です。私達、社長とお話ししたかったのに…。」

「そうですよ。
社長に愚痴なんてありません。私達皆んな社長に憧れてますから、少しでもお近付きになれたらなんて、思ってるくらいです。」

物珍しい奴もいるもんだとそう言う社員をチラッと見る。

「何か、俺に話があるなら気軽に社長室に来て構わない。」
彼女達の気持ちも分からずそう淡々と話す。

「今後、各部署ごとにランチミーティングでも開いてくれれば参加する。」
そう提案して、また階数表示を見つめ直す。

「それ、良いですね。
課長に伝えておきますので是非実現してくださいね。」
女子社員達がなぜ騒ついているのか気にもとめないで、

「分かった…。」
とだけは言って、俺は淡々と階数表示を見つめ続けていた。

普段自分に話しかけて来る社員なんて、そういないのでてっきり怖がられているのかと思っていた。

自身、自分がどれだけ魅力的な男かと言う事に気付かず、意外と周りの好奇な目には鈍い所があったりする。

フッと笑い、階数表示が1を指すと社員の為に開くのボタンを押してやる。

「お疲れ様、明日の忘年会楽しんで。」

「お疲れ様でした。」

と降りて行く女子社員達を見送って、閉まるのボタンを素早く押し、地下まで1人降りて行く。

エレベーターを降りた女子社員達が、
キャーキャーと囃し立てるのを知る余地もなく、俺の心はただひたすら果穂の事ばかりを追いかける。
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