悪役令嬢は書き換える
3 悪役令嬢は誤魔化すのを辞めたそうです
「シャルねぇちゃん水汲んでき...誰だよソイツ。」
水を汲んで来てくれたカリーの目の前には、机を挟んで座る私と謎の美青年がいた。
「えっと...」
(なんでカリーちょっと不機嫌なんだろ?)
美青年を見るカリーの目には、どこか殺気満ちたものがあった。
「申し遅れました。私はレダ教神官の一人です。名前は...」
カリーの視線をものともせず、美青年は立ち上がり右をぐー左をパーにして胸の辺りで交差させた。
確かにそれは、記憶にあるレダ教の神官達が挨拶などに使うポーズだった。
「神官だって?シャルねぇちゃんになんの用だ。」
神官と聞いた瞬間にカリーから来る殺気に近い覇気が強まる。
(これは止めた方がいいか?)
神官のほとんどはなんと言っても、元貴族だ。下手したら平民などすぐに消される。
「カリー辞めなさい。」
「シャルねぇちゃんっ!!でもっ!」
「いいから。」
カリーをじっと見てカリーを私の隣の席に座らせ落ち着かせた。
(さてどうするかな...)
「で、神官様がこのような場所に、しかも私に会いにいらしたんだとか...一体どういったご要件か聞いてもいいでしょうか?」
微笑んで、しかし美青年の目をしっかりと見つめた。
「フッそんなに見つめられると困ってしまいますね。それにしても、14歳にしてはしっかりしている。いや、しすぎと言ってもいいくらいかな。」
(やべーちょっとやり過ぎたかーもうちょい子どもっぽくすればよかった?いやでもそれで逆に怪しまれたかも...そもそもここに来る時点で何かを掴んでいる?私以外の書き換え者ってこと??)
『シャ〜ルっ!何そんなに考えてんのーそんな人いるわけないじゃない!私の好きな子はシャルだけだって〜』
(エト...)
「シャルねぇちゃん...大丈夫か?やっぱあいつのことっ!!」
「大丈夫!!大丈夫だからねっ!」
私はそう言って本当の笑顔に戻って顔を上げた。
(もうここは社交界じゃない、人の揚げ足をとる人も、遠回しに意地悪する人もいない。...ヨシっ!)
『それに彼は悪い人では無いと思うの。話を聞いてあげて。』
(分かった。)
「すいません。ちょっと取り乱しました。で、用事って何なんですか?私の名前はどこから...」
「よかったー」
「えっ?」
「なんだか警戒されているようだったので、その方がいいなーと思いまして。」
そう言って美青年はにっこり笑った。
(爽やかだなー)
『あんなクズよりこういうイケメンの方が私は好きよ!』
エトは少しテンション高めで叫んでいた。
「あぁ私の自己紹介会から改めて、レダ教一般神官、予知の神を加護をにもつ、イアンツィーと申します。ここへは、神託が下ったので参りました。」
「神託?」
『予知の神かーあいつは信用ならないんだけど...』
(何?知り合いなの?)
『まぁこの人の子からは悪い気はしないから安心して!』
私の質問をスルーするされたところを見るに、何か過去にあったよいだ。
「神託と言っても、夢なんですけどね...私は昔から時々鮮明な夢を見るんですよ。今回はこの家に住むシャロルという子の夢だったんです。」
「私の夢ですか?」
「はい、貴方はもしかしたら時空に囚われているんじゃないかと...」
心がざわついた。
「.........」
何か言わないといけないのに何も言葉が浮かばなかった。
「あっ大丈夫ですよ。」
私が強ばったのに気がついたのか、イアンツィーはとても慎重に、暖かくそう言った。
「貴方が何周も時空を超えていようといないだろうと、そんなことはどちらでもいいんです。ただ私は...僕は妹を助けたいんです。」
イアンツィーは少しずつ事情を話し始めた。
イアンツィーは周りの神官とは少し違った境遇にあるらしく、本来ならば、家を継いでいてもおかしくはない立場だそうだ。
しかし、妹が病気にかかり神託の神を加護に持つことから神官になれば妹を助けるヒントがもっと得られるのではないかと思い神官になったそうだ。
「だから久しぶりに夢を見た時、やっと妹が助かるヒントになるんじゃないかって...」
「そうだったんですか...」
この時期の重い病気といえば、ピュリタ病のことだろう。砂糖に含まれる細菌が原因と結論付けけられたのは、私が追放をくらった後だった気がする。貴族のよく食べる菓子には砂糖がよく使われるので、ほとんどの感染者は貴族の娘達だった。
発熱が続き、最後はその熱で体内の器官や皮膚が焼け、苦しみながら死ぬ。特効薬がない時代はこの病気によって何人もの人が安楽死を選んだ。
(確かピュリタ病の特効薬は、シナモンの元になっている実?と炭と聖水だった気が...でもこれ作れるの光の巫女だけだったんだよねー)
『えっうっそーそんな設定作ってないって...あ...あの子嘘言ったのね。やっぱりもう加護をあげるの辞めようかしら??』
エトがブツブツ言っている内容にも気になったが、それよりも私でも特効薬が作れることに驚いた。
「あのイアンツィーさん...これは提案なんですけど...」