残業のプロポーズ
「今日も疲れたー」

誰も居ないオフィスに響き渡るような声で独り言を呟く。

私の名前は近藤 恵、27歳。

1年前に彼氏に浮気されてから独り身だ。

やることなく、寂しさを紛らわす為、仕事に熱中する日々。残業する日々を過ごしている。

「疲れたし、そろそろ帰るか」

そう呟き、帰る支度をする。


帰り道は真っ暗でら27の大人でも、ちょっと怖い、、


家に着き、誰もいないがただいまと言う。

疲れついでにお風呂という名のシャワーをあび、ベッドにダイブする。

(今日も1日頑張ったよ。自分)

そう心の中で自分を褒める。

明日も朝早いので、アラームをセットし、眠りにつく。


ピピッ

「(´-﹃-`)むにゃむにゃ…」

寝ぼけ頭でアラームを止め、スマホのロック画面の゛二度寝禁止゛とでっかく書かれた文字をみて、気合いで起きる。

朝はとにかく時間がない。

簡単にシャワーを浴び、着替え、髪の毛のセット、メイクをし、朝食を口にかきこむ。

バタバタと慌ただしく準備をし、出勤する。

「おはようございますー」

そう挨拶する。

「おはようございます。」

と返してくれる人も居れば、無視する人も結構多い。

「強風にでも煽られたか?頭ボサボサだぞ」

といい、私の頭をぐしゃぐしゃにする先輩。

確かに私は髪のセットが苦手だ。

でも余計にぐしゃぐしゃにする必要は無い。

そう言い返そうと怒ると、先輩は笑って、
「男みたいだな。髪短いし」と意地悪なことを言う。

「入江先輩、いいかげんにしてくだちゃい!」

と言い返すも噛んでしまい、また、先輩に笑われる。

入江先輩はいつも意地悪してくる先輩だ。

しかも仕事にめっちゃ厳しい。

意地悪するし、仕事で私に叱ってばかりで正直苦手な先輩だ。


「はいはい、んな事より、今日の仕事は定時で終わらせろよ?」

と一気に仕事モードの先輩。

「分かってますよ!」と答える。


と言っても、いつも定時では終わってるのだ。
ただ、何回もやり直しさせられる…

ミスも何もないのに…


「そうか、期待してるぞ」とニヤッとする先輩。

絶対なにか企んでる…

そう思う私。


私の仕事は広告会社だ。

お客様の商品が人気出るように、アピールするものを作らないといけない。かつお客様の要望にもお応えする。

デザインや文字の配置にも気を配る。

何回もやり直しは当たり前といえば当たり前なのだ。しかし、お客様の元に届く前に私はやり直しさせられる…。誤字脱字は厳しくチェックしてるし、配置だって申し分無いはずだ。

なのに、「こんなんじゃアピールできん。」
そう言って、いつも先輩は却下する。

しかも理由聞いても
「バカは能無しか?自分で考えろ!」
と怒鳴る。

そして私は残業する…たまには
すんなり通る時もある。

でもその時は

「今日は余裕あるみたいだな」

といい、追加の仕事をよこしてくる。

そんな毎日だ。


今日も、残業する日だ…

誰もいないオフィスが当たり前の0時…

ようやく仕事が終わり、

帰る前にトイレに行く…

用を足したあと、出ようと思っても出れない…

扉に体当たりするがダメ…

スマホはオフィスに置きっぱなしで連絡手段はなし。

「すみませーん」と声を出してみる。

が勿論反応無し。

一夜ここで明かすのかな…

どうしよう、このまま帰れなかったら…

誰にも気づかれなかったらどうしよう…

そう不安ばかりが募る…

もう一度扉に体当たりするもびくともしない。

鍵もロックかかってないのに開かない…

恥をしのんで、声を出すしかない…

そう思い、建物全体に響くような大きさで
呼びかける…

でも誰か来る気配はなく…


何度か休憩しては呼びかけるのを繰り返した。


そして100度目の呼びかけで、

誰かの足音が聞こえる…


もう一度声をかける。

「すみませんー、誰かいませんか?」


足音がどんどん近づいてきて、

「扉から離れる位置にいろ」

そう、足音の主は呟く


そして、思い切り扉に体当たりする音が聞こえたと思ったら、扉が外れ、脱出することが出来た。


誰だろうと顔を上げてみると、
あの入江先輩である。

驚き、

「入江先輩、なんでここに?」

そう聞くと


「いや、忘れ物して寄ったんだが、オフィスの電気はついてるし、お前の鞄もあるからな、なんかトラブルにも巻き込まれてるんじゃないかと思って…徘徊してた。」

「そしたらお前の叫び声聞こえたからさ」

「あんな声出せるんだな。」

そう言う先輩、

私はお礼をいい、ついでに仕事も終わったことを報告した。

「うん、完璧。いつも厳しいこと言ってごめんな。お前一生懸命だからさ、よりよくなって欲しくてさ、俺は応援してるから。」

そういつもと違い優しい口調で言う先輩。

今日は優しいなぁと思ってたら、それもつかの間…

「でも、まさかトイレから出られなくなってるとはなぁ…やっぱ馬鹿なところあるよな。お前は」

と意地悪なことも言う先輩

「助けてくれてかっこいいと思ってたのに…余計な一言多すぎですよ!」

と怒って言うと

「ごめんごめん、お前の反応が面白くてさ」

と言う先輩。

「私の反応で遊ばないでください!」

と言うと、

「ごめんな」と笑い、

「お前が好きだからつい。」

という先輩。

「え?」

と驚いて答えると

「うん。お前が好きだから。いつも一生懸命で頑張り屋なのに身がでてないのが悔しくてさ、つい厳しいこと言ってしまうし、お前の面白くて可愛い反応見たくてからかってしまう。ごめんな」

と言う先輩。


何も答えられないでいると、

「うん、告白する気なんてなかったんだよなぁ…こんな5歳も上のおっさんに告られても嫌だろ?でも止まらなくてさ…返事はしなくていいからさ」

と寂しげな顔を見せる先輩。


「いや、すみません、突然で想像もできなかったんでびっくりしちゃって…、告白嬉しいですよ。だって確かに先輩は厳しいし、怖いし、意地悪だけど、優しいところあるって知ってますから。それに私も先輩のそのしっかりしたところや仕事熱心なとこ嫌いじゃないです。」

「ただ、恋愛感情はまだないけどこれから芽生えたらいいなぁと思ってます。」

そう言葉を選びながら自分の本心を伝える…

「そっか、ありがとう。じゃあ友達関係からでもいいですか?僕と恋人になるのを前提に友達になってください。」

と一風変わった告白をする先輩。

返事は勿論YES。

そうして私達は仕事以外でも交流を深め…


10年後

「結婚してください」

そう、あれから数年後、正式に告白され、
先輩と私はお付き合いをしていた。

それから、時は経ち、

今日、私の誕生日にプロポーズをしてくれた。

勿論返事は決まってる。

「こちらこそよろしくお願いします。」
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