あなたに食べられたい。
「篝と同じ職場で働いている廣永昴です。こちらは秘書の梅木果歩です。うちの秘書がどうしてもこちらのサンドウィッチを食べてみたいと言うので寄らせてもらいました」
「だってジローさんにいくら頼んでも買ってきてくれないんですもん。毎日通ってるのに。台風の中、わざわざ迎えに行ったんだからお礼ぐらいしてもらってもいいと思いませんか?」
「ジローは子供っぽいところがあるからな。独り占めしたいんだよ」
スマホも壊れた中、唯一暗記していた連絡先だけあって会話の端々に仲の良さが窺える。
「ジローさんはお仕事がお忙しいのでしょうか?今日はまだお見えになってませんが……」
昴と果歩は互いに困ったように互いに顔を見合わせた。しばしの逡巡の末、果歩が口を開く。
「あの……。今日はこちらに来られないと思います。今朝方、食あたりで動けないと連絡がありまして……」
「食当たり、ですか?」
飲食店経営者なら誰しもがゾッとする単語だ。
顔からサーッと血の気が引いていく。
「あ、あの!!それ、私のせいかもしれません……!!」
どうしよう。大変なことになった。
栞里にはジローの食当たりに心当たりがあった。昨日渡したサバトマトサンドだ。
サバトマトサンドに使ったサバは二日前に鮮魚店で買ったものだ。多少時間が経っていたものの、素揚げするし大丈夫だろうと過信していた。自分で食べるつもりだったので衛生面での管理が甘かったのかもしれない。