あなたに食べられたい。
あれ?もしかして一人で行かなきゃいけないってこと?
心の準備が出来ないまま、エレベーターはあっという間に二十二階に到着した。
「すみません。こちら、ジローさんに渡して頂けますか?」
「あ、はい……」
部屋の扉の前まで案内されると果歩からレジ袋を渡される。ついでに困ったことがあったら連絡して欲しいと連絡先も交換する。
果歩が慌ただしく帰っていき、一人きりになると栞里は心の中で十秒数え意を決してインターフォンを鳴らした。
「すみません、沢渡です。お見舞いに伺いました」
返答がない、かと思いきやいきなり扉が開きスウェット姿のジローが現れた。
「昴とウメキチは?」
「お仕事があるからと会社に戻られました。お見舞いのお品を預かってます」
「あいつら……ひとりで放り出しやがって」
ジローが低い声で唸ると、眉間に深い皺が刻まれていく。
事前に連絡してもらったとはいえ、赤の他人の自分が突然来たのはやはりまずかったのだろうか。
「とにかく入れよ」
「はい……。お邪魔します」
その場の勢いに任せてノコノコやってきてしまったが冷静に考えたらジローが独り身だとは思えない。
よしんば独身だったとしても恋人がいるとなれば、栞里の来訪は迷惑なものなのかもしれない。
「お加減はいかがですか?」
「見ての通り、まあまあ良くなった」
本人が言う通り顔色こそ悪いが、起き上がれるくらいには元気そうでひと安心する。
あとは用件を済ませてさっさと帰ろう。