あなたに食べられたい。
世間を騒がせた台風から数週間が経ち、この日は朝から雲ひとつない秋晴れとなった。
栞里はそわそわと落ち着かない様子で壁掛け時計を見ていた。
時刻は二時。
忙しい昼時を過ぎ店内には客の姿はない。
これまでアイドルタイムは店の奥に引っ込んで発注作業をしたり帳簿を付けて過ごしていたが、最近は違う。
人気のない店頭にわざわざ残り、ディスプレイを直したり、ショーケースを拭いたりして時間を潰していると、来客を知らせるカウベルが鳴る。
「まだ残ってるか?」
ジローは店に現れるなり、栞里に尋ねた。
栞里は慌てて定位置であるショーケースの前に立った。
「ジローさんのお好きなチキンサンドは売れちゃいましたよ。卵サンドは最後の一個です」
「やりぃ。じゃあ、卵サンドときんぴらサンドひとつずつ。あと、コーヒー。そこのイートインで食ってく」
「コーヒーは砂糖とミルクもいりますよね?」
「ああ」
栞里は鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌になり、作り置きのコーヒーをマグカップに注いだ。
台風の日以来、ジローはすっかり常連になった。毎日、昼時を過ぎた二時頃現れ、イートインスペースでサンドイッチ二つとコーヒーを注文して行く。