あなたに食べられたい。
「すみません。電子レジの調子が悪いみたいで……。先に食べてお待ち頂けますか?」
「わかった」
ジローにトレーを渡し、栞里はマニュアルと格闘した。しかし、読めば読むほど分からなくなる。
マニュアルにはQ&Aのページを参照しろと書いてあるが、まず該当のページがエラーになって出てこない。
四苦八苦すること二十分。食事を終えたジローがトレーを下げに来ても、まだ電子レジは復旧していなかった。
「マニュアル見せてみろ」
「……え!?」
ジローは渡せと言わんばかりに手を差し出した。
「レジが使えないと困るんだろ?」
アイドルタイムが終われば、第二のピークタイムがやってくる。ジローが言う通り電子レジが使えないのは致命的だった。
背に腹は変えられず、栞里はジローにマニュアルとタブレットを渡した。
ジローはマニュアルを流し読みすると、タブレットを素早く操作した。すると、三分も経たないうちにタブレットを返してきた。
「モデムはどこにある?」
「モ、モデム……?」
「ネットに繋がるようにするためのちっさい機械だ。食パンぐらいの大きさ」
「ああ!!あれですね!!」
栞里はジローを店の奥にある一畳ほどの事務スペースに案内した。
ジローは床に直置きされたモデムの四方を一瞥すると栞里に言った。
「これ、壊れてるぞ。電源つかねーし」
「え!?」
モデムが壊れていると言うことは店の中でネットが使えないということだ。それは困る。売上確認も発注も現在は全てネット経由で行っているからだ。
「俺のモバイル貸してやるから、今日はこれで凌げ。中古で良ければ俺んちにあるから、明日設置してやる」
「そんな……!!そこまでしてもらわなくても!!」
「ま、これで貸し借りなしっつーことで」
ジローは照れ隠しのように首の後ろを掻いた。
気前よく貸してくれたモバイルでネットに繋ぐと電子レジは問題なく動くようになった。無事会計を済ませたジローは何事もなかったかのように帰って行った。