あなたに食べられたい。
「お姉ちゃん!!大変!!」
「どうしたの?」
昼間の余韻に浸るようにぼうっとテレビを見ていた栞里は麻里の騒がしい声で現実に戻ってきた。
両親が亡くなった今、栞里と麻里は店から十メートルほどの距離にある築四十年の木造一軒家の実家で二人暮らしをしていた。
「ちょっとした好奇心でジローさんの会社のことを調べてみたんだけどさ……。これ、本人だよね?」
麻里が見せてきたスマホにはとある企業のホームページが映し出されていた。画面を下の方にスライドしていくと、執行役員紹介ページに辿り着く。
とんでもなく美形な社長、温和な笑顔を浮かべる副社長に続き、ジローの顔写真が掲載されていた。
「え、あ!?ええっ!?」
パーカーも着ておらず、小洒落たジャケットを羽織るジローはやや固い表情でオフィスをバックに写真を撮られていた。
心のままにサンドウィッチにパクつく姿とはまるで別人のようだった。
ジローの肩書きは社長、副社長に続く最高技術責任者。つまりはとっても偉くて凄い人。
篝皇治郎……かがりおうじろう……。
栞里は心の中で何度もジローの名前を復唱した。
ジローが本名だとすっかり思いこんでいたが、まさかあだ名だったとは。
栞里は麻里にスマホを返すと、自室に引っ込んだ。よせばいいのに布団に潜って更に検索を始める。
ジローの本名をブラウザの検索欄に打ち込むと華々しい略歴が直ぐに判明した。
二時間ネットサーフィンした結果分かったことは、彼が三十二歳だということ。
ジローの勤める会社が各界から注目を浴びているスタートアップ企業だということ。
ジローがプログラミング大会で何度も優勝したことのある凄腕のエンジニアだということ。
街の片隅にあるサンドウィッチ店のモデム交換と初期設定なんて決してさせてはならない人ということだった。