あなたに食べられたい。


 衝撃の事実が判明した翌日、栞里は欠伸を噛み殺しながらショーケースにサンドウィッチを並べていた。結局、昨夜寝たのは深夜一時過ぎ。サンドウィッチの仕込みで毎日五時起きの栞里にとってこの寝不足は辛いものだった。
 客足が途絶えたところで小休止したいところだが、今日に限って栞里の思惑とは真逆の千客万来となる。
 漏れ聞いたところ近隣のコンサートホールで人気アイドルのファンイベントがあったらしい。
 イベント後に若い女性客がここまで流れてきており、そのおかげで通常より来店が増えたようだ。
 売って並べて、また売って。忙しなく働き続け、ようやく一息つけたのは夕方五時を過ぎた頃だった。

「あれ?ジローさん来なかったの?」
「そう……みたい」

 麻里からジローの来店を確認された栞里は、力無く頷いた。
 朝から店頭に立ち続けた栞里がジローの来店に気が付かないはずがない。
 元々毎日来ると約束をしていたわけではない。来るも来ないもジローの都合次第。頭では理解しているが、それでも栞里は肩を落としていた。

 今日はもう来ないのかな……。

 そうこうしているうちに店に残された最後のサンドウィッチが売れてしまった。
 在庫切れを受け、栞里は閉店時間を前倒しすることにした。
< 9 / 22 >

この作品をシェア

pagetop