罪人とお嬢様の甘くて危険な恋を



その日は、何事もなく職場で仕事が終わるかと思われた就業時間終了1時間前。
だが、警察署がそんなに平和ではない事を蛍はわかっていた。面倒な仕事が舞い込むのは、決まってこの時間帯なのだ。それに、先ほどから上司がしきりに電話をしている。
これは、嵐の予感だ。これなら男の勘も当たるというものだ。

「お、まだ蛍いるじゃん!」
「………げ」
「なんだ、ピアスなんぞしてちゃらけおって。彼女でも出来たか?」
「………出来てないです」


今回の嵐はかなり大型の台風のようだ。
サイバー課に入って来たのは、あの滝沢と栗林だった。
そう。刑があけてから警察署に入れてくれたのは滝沢であったし、栗林は恩人の後輩だ。
だが、60歳にもなる滝川はベテラン刑事で、昔でいう頑固親父な男であった。短髪にした髪には白髪がまざり、体格のいい体だが、ネクタイを緩めるにつけたり、上着のボタンを外したりしているため、だらしのないイメージがある。この男にはピアスの事は言われたくなかった。

茶色髪と垂れ目が特徴的な栗林は蛍と同じ年の男であり、先輩だ。だが、彼が人懐っこい性格な事からタメ口で話す中である。今も、グリグリと蛍の綺麗に整えられた髪をワシャワシャと撫でまくり、ボロボロにしながら笑っている。
なんで、ここの先輩達は、こうも自分の髪を乱れさせてくるのだろうか。謎だ。

「ちゃんと、仕事してるか?」
「してますよ。栗林が来なかったら、定時前に仕事を終わらせて、今日こそは定時に帰れるはずでした」
「残念だったな。今から、現場だ」
「……最悪だ」
「そんなに、嫌がるなよ。もしかしたら、若い彼女が出来るかもしれないぞ。正義の味方が女を助けて、惚れられてしまう、みたいな!」
「栗林、今回の依頼は教授からだ」
「女教授っ!それもまたいいっすね」
「退職間際の男だ」
「………ほたる、残念だったな」
「……」



どうやら、今回の捜査の舞台は大学のようだ。
栗林の夢は砕けてしまったようだが、蛍はそんな事は気にせずに現場に出る準備を始めた。

今日も、終電は逃してしまいそうである。
でも、仕方がない。
蛍はこの仕事を辞めれるはずがないのだ。どうやっても罪は消えないのだから、死ぬまでここで働いていく。

それが蛍の今を生きる理由なのだから。




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