ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
ピンポーン
若葉がインターホンを押すと、東堂は笑顔で若葉を部屋に招き入れた。
その笑顔が今の若葉には苦痛でしかなかった。
「会いたかった。」
東堂は若葉に素直な気持ちを投げかける。
「実家に帰ってたんだってね。」
「え?どうして・・・。」
「ああ、実は、坂本君→佐野経由で聞いてね。
言ってくれたらよかったのに。で、大丈夫だった?」
「ええ、はい。」
「何か飲む?」
「え?」
「なんか、疲れた顔してるから。」
「あ、ごめんなさい。」
東堂の優しさが今の若葉には辛い。
「いや、謝る必要はないよ。お茶でいいかな?」
「いえ、いいです。あの、実はお話があります。」
と、若葉は意を決して切り出した。
引っ張れば引っ張るほど東堂の優しさに溺れてしまいそうになる。
若葉は、東堂からもらった指輪をケースごと東堂の前に差し出した。
「え?」
東堂が驚きの声を漏らす。
「お返しします。」
「どうして?」
「ごめんなさい。」
「若葉さん、理由を聞かせてくれる?」
「・・・ごめんなさい。」
若葉の目からぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちる。
「ごめんなさい。」
「謝ってほしいわけじゃないんだ。理由を聞きたい。」
と、東堂が言う。
若葉は何も答えられない。
東堂は、泣きながら立ちすくむ若葉をそっと優しく抱きしめた。
「実家で何かあった?」
東堂の問いかけに、若葉はただ、東堂の胸の中で首を横に振るだけだった。
「僕に出来ることはない?」
若葉はただただ、首を横に振る。
若葉はぐいっと、東堂の胸を押し返し、東堂から離れると、
「ごめんなさい。冬英さんとは結婚出来なくなりました。
今まで本当にありがとうございました。」
そう言うと、若葉はバッグを手に取り、部屋を出ようとした。
しかし、すぐに東堂が若葉のバッグを掴んだ。
「待って。」
その弾みで、若葉のバッグが宙を舞い、床に落ちた。
そしてその勢いでバッグの中身が飛び出した。
「ごめん。」
東堂が謝り若葉のバッグから散らばったもの拾うと、
若葉がそれを受け取り、バッグに入れた。
「ごめんなさい。今日は失礼します。」
若葉は部屋を飛び出した。
東堂は追いかけて、理由を問い詰めたい気持ちでいっぱいだったが、
あの様子では何も聞き出せそうにないと断念した。