ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
若葉は、翌日出勤すると、課長に退職願を返してもらった。

課長は、若葉の退職の撤回を、非常に喜んでくれた。

坂本君にも、心配をかけたことを詫びた。

そして、1週間後。

若葉は佐野に言われた通り、東堂さんに会いに行くことを1週間待った。
若葉は、仕事を終えると、その足で、東堂のマンションに向かった。

会ってもらえるだろうか?
許してもらえるだろうか?

若葉はそんな不安を抱えながら、インターホンを押した。

「河合です。突然すいません。」

「どうぞ。」

と言う声がして、エントランスの扉が開いた。

心なしか、いつもの東堂より、声が低かったように感じた。

やっぱり、かなり怒っているのかも・・・。

若葉はかなりの緊張状態のまま、東堂の部屋へ向かった。

今度は部屋のインターホンを押した。

カチャリと鍵の開く音がし、インターホン越しに

「どうぞ。」

と、東堂の声が聞こえた。

以前訪れた時は、玄関前まで出迎えてくれたが、今日は、勝手に入れと
いわんばかりの冷たい対応だった。

そりゃそうだろう。今の私は冬英さんにとって疫病神みたいなものだろう・・。

そう、思いながらも、勇気を振り絞り、扉を開け、部屋に入った。

「お邪魔します。」

若葉は震える声で言うと、部屋の奥へと進んで行った。

東堂は、デスクのPCに向かって作業をしていた。

若葉が来ても、振り返ることすらしない。

冬英さん、やっぱりかなり怒ってる・・・。そりゃそうよね・・・。

若葉は、東堂の態度は自分のせいだとわかっていても、いたたまれない気持ちになった。

この度は、本当に申し訳ありません。そして、助けてくださって、
本当にありがとうございました。」

若葉は、背を向けたままの東堂にそういうと、深々と頭を下げた。

しかし、相変わらず、東堂はPCに向かったままで、振り返ろうともしない。
聞こえてるわよね?若葉は不安になり、
顔を上げると、ゆっくりと東堂の傍に近づいて行った。

「あの、東堂さん?」

もう一度、声を掛けるが、東堂は若葉の声には反応せず、カタカタとキーボードを叩く音だけが、
部屋に響いていた。

若葉は、もう一度、大きな声で、

「申し訳ありませ・・・きゃっ!」

東堂は椅子に座ったままくるりと若葉の方へ向きを変えると、
若葉の腰に両腕を回し、がっちりと引き寄せたのだ。
< 121 / 128 >

この作品をシェア

pagetop