ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする

館内は静かで、誰もいない。
青い空間の中、2人だけの世界で、まるで別世界に来たような感覚だ。

2人で手をつないだまま、ゆっくりと館内を歩いて行く。

雄大に泳ぐエイやイルカ、幻想的な光を放つクラゲ。

若葉は日ごろの自分がなんてちっぽけな人間なんだろうと思った。
魚たちの厳かな生命力に圧倒されると同時に、静かな青い空間に癒された。

若葉の様子を察してか、東堂は青い世界に見入る若葉に話し掛けることはしなかった。
東堂はつないだ手を離すことなく、静かに若葉を見守った。

気が付くと、貸し切り終了時間が迫っていた。

「すみません。見入ってしまって・・・。」

若葉が申し訳なさそうに言うと、

「いや、気に入ってもらえたようで良かったよ。」

と言った。

「はい、それはもう！」

と言った。

出口付近に近づくと、お土産物店があった。

そこを通らなければ出口には行けない。よくある作りである。

お土産物店の通路を通ると、若葉の目にイルカのぬいぐるみが映った。

「さっきのイルカ、かわいかったですね。」

と、若葉は何気に大きなイルカのぬいぐるみを手に取り、そう言うと、

「これ、今日の記念に買っていこうか。」

と、東堂が言った。

「え?そういうつもりで言ったんじゃないので・・・。」

と言うと、

「分かってるよ。今日はこの水族館、僕たちだけのために開けてくれてるから、
何か買った方がいいんだよ。これにしよう。」

東堂は、そう言うと、すぐに店員を呼び、大きなイルカのぬいぐるみを購入した。

そして、大きなビニールバッグに入ったイルカのぬいぐるみを若葉に渡した。

「はい、今日のデートの記念のプレゼント。」

「で、でも、洋服も買って頂いたし、その上ぬいぐるみまで頂くわけには・・・。」

「さすがに僕もぬいぐるみを突き返されると困るから、受け取ってもらわないと。」

と、照れくさそうに言うので、若葉は思わず微笑みながら、

「じゃあ、遠慮なくいただきます。」

と言って両手で受け取った。