ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
そりゃあ、あれだけ素敵な東堂さんなら彼女の一人や二人、いて当然である。

若葉は、湧き出てくる涙を必死にこらえながら、
早くこの場を立ち去りたい一心で、

「あの、大事なお話と言うのは?」

と、震える声をなんとか抑えながら聞いた。

「また、東堂がつまみ食いしてるみたいだから、
あなたが傷つく前に教えてあげようと思って。
私たち、よりを戻す予定なのよね。」

と、酒井がわざとらしく若葉に同情をするような口調で言った。

「ほら、私とあなたじゃ全然違うでしょ。」

と、酒井が自分の巻いた髪を指でいじりながら言った。

「・・・違うというのは?」

若葉は聞き返した。

「東堂は私みたいな華やかなタイプが好きなのよ。悪いけど、あなたみたいな
地味な女、本気で相手にするわけないじゃない。なんで分からないかなあ?
あっ、誤解しないでね。私は親切心から教えてあげてるだけだから。」

確かに酒井さんの言う通り、私は酒井さんのように綺麗じゃないし、華やかさもない。
でも、本心では、今東堂さんとお付き合いしてるのは私です!と言いたかった。しかし、自分から
2人のお付き合いは秘密にしてほしいと言った以上、ここで会社の人に言うわけにもいかない。

「・・・分かりました。用件はそれだけですよね?
私はお仕事で関わっているだけですので、ご心配なく。では失礼いたします。」

「待ちなさいよ!まだ話は終わってないのよ!」

と、その場を立ち去ろうとする私の腕を酒井さんが掴もうとした時、
なぜか私の身体が後ろに吸い寄せられた。

トン

と背中に温かい感触が。誰かが私の肩に手を置き、自分の方に引き寄せたのだ。

「酒井、俺の視界から今すぐ消えてくれ。」

それは東堂さんの声だった。怒りのこもった低く静かな口調で
酒井さんに向けて発せられた。

私の腕を掴もうとしていた酒井さんの手は空振りし、行き場を失っていた。

酒井さんは自分のコーヒーを掴むと、悔しさを顔に出し、バタバタと店を出て行った。

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