ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
「ごめん、若葉さん!遅くなって。」

心配そうな表情で東堂さんが若葉の顔を覗き込んだ。

「え?あのどうして?」

若葉は、さっきまで必死にこらえていた涙が、東堂さんが来てくれた驚きと安堵
で、ぽろぽろと一気に溢れ出した。
それを見て東堂が、若葉を一旦座らせ、ハンカチを渡すと、

「ちょっと待ってて。」

と言って、店員からもらった紙袋に若葉の食べかけのサンドイッチとコーヒーを
入れ、若葉の手を取り、店を出た。

東堂は、

「ちょっと、落ち着けるところに行こうか。」

と言って、若葉を同じビルのエレベーターに乗せ、地下駐車場へ向かった。

東堂は止めてある車の助手席に若葉を乗せると、自分も運転席に座った。
東堂は何も言わず、若葉が落ち着くのを待ってくれていた。沈黙の中、
先に口を開いたのは若葉だった。

「冬英さん、どうして?」

「坂本くんから連絡もらってね。君が酒井さんに呼び出されてるって聞いて。」

「坂本くんが?」

「ああ、怒らないであげてね。君の表情が暗かったから、何か知らないか僕に相談
してきたんだよ。」

「そうだったんですね。」

「今日は、自宅で仕事してたからすぐに車出せたんだけど、ちょっと渋滞にはまって。
時間より遅れてしまった。」

東堂は、一拍置いてから、再び話し始めた。

「酒井は、会社を立ち上げた時からの同僚で、仕事ではものすごく頼りになる
なくてはならない人材なんだけど、いつの頃からか、僕に執着し始めて。」

「酒井さんとお付き合い・・・されてるんですよね。」

「付き合ってないし、付き合ったこともないよ!」

「???でも酒井さんが・・・。」

「何回か告白されたことはあったけど、すべて断ったよ。」

「酒井は思い込みの激しい所があってね。僕への執着がひどくなってきたから、
佐野と相談して、僕は極力会社に行かないようにして、酒井も部署を変えて、
出来るだけ会わないようにしてたんだけど。こんなことになるなんて。」

若葉の目に車の時計が目に入った。すでに13:30になっていた。

「あの、私会社に戻らないと。」

「ああ、そうだよね。今日の18時に会社に迎えに行くから。」

「はい。じゃあ、ありがとうございました。失礼します。」

と言って、若葉が車を降りようとすると、東堂が若葉の手に自分の大きな手を
重ねて真剣な眼差しで、

「僕が好きなのは若葉さんだけだから。信じてほしい。」

と言って来た。

「・・・はい。」

と言って、若葉は車から降りた。
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