ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
若葉vs有野社長
翌日、若葉は、母の病院にお見舞いに行ってから、
その足で有野社長のいるホテルへ向かった。
ホテルのフロントで、有野社長に取り次いでもらうよう話すと、
すぐに秘書の木下がやってきた。
「河合様、お待ちしておりました。ご案内いたします。」
と言って、若葉を有野社長がいるスイートルームに案内した。
木下はベルを鳴らしてから、カードキーで扉を開けた。
「どうぞ、お入りください。」
と言って、先に若葉を部屋に通した。
若葉が奥へ進んでいくと、書斎のような空間になっており、有野社長が仕事をしていた。
有野社長は手を止めると、
「そろそろ来る頃だと思っていたよ。」
と、若葉を見るなり、有野社長が笑みを浮かべて言った。
「どうして私が来ると分かったんですか?あなたがうちの旅館の売却を阻止してるからですか?」
若葉は嫌悪感を剥き出しにし、有野社長に向かって言った。
「はっはっは!」
と、有野社長は大きな声で笑ってから、
「木下、例の資料を、このお嬢さんに見せなさい。」
と言った。秘書の木下は手に持っていた封筒から、資料を指で選別してから
一部を取り出すと若葉に渡した。
若葉は疑問を抱きながらも、木下から渡された資料に目を通した。
「これは・・・この町の地価?・・・。」
「そうだ。この町自体の地価が、今現在、ここまで下落しているんだ。
私がどうこうではなく、二束三文の土地に投資する者はいないよ。
分かったかい?」
「・・・ええ。」
若葉は現実を突きつけられ、頷くしかなかった。
「私は、君たちの敵ではない。むしろ味方なんだよ。」
「・・・はい、この数字を見てよく分かりました。」
「じゃあ、私のところに来てくれるね?」
「・・・はい。」
完全に敗北だ。若葉は弱弱しい声で返事をした。
「よし。ではすぐに今の会社を辞めてこっちに戻ってきなさい。私たちの新居は
おいおい探すとして、とりあえず、このホテルで一緒に暮らしなさい。」
「待ってください!今、どうしてもやり遂げたい企画があって。
その仕事が終わるまで結婚は待っていただけませんか?」
「その仕事はいつ終わるんだ?」
「3か月後です。」
「分かった。では3か月後、退職してこっちに来なさい。」
「分かりました。」
「ただ、引き延ばすに当たって条件がある。」
「何でしょう?」
「先に籍を入れておきたい。木下、渡してくれ。」
「はい。」
と言うと、木下は、先程と同じ封筒から有野社長が半分記入した婚姻届けを抜き取ると、若葉に渡した。
「・・・。」
若葉は、震える手で婚姻届けを受け取った。
実際に事が動き出した。もう逃げられない。と改めて若葉は覚悟した。