探偵少女
 知由の投げやりな言い方に、誰もが口を噤む。


 反論がないところを見て、知由は戻ろうとするが、夢里が手首を掴んで引き止める。


「話だけでも聞いてあげよう?」


 夢里の悲しさあふれる瞳に、知由ははっきりと断れなかった。


 夢里はかつて、ストーカー被害に遭った。


 そして、それが原因で知由を施設に預けることになってしまった。


 そういう経緯を知っているからこそ、強く言うことができなかった。


 知由は大きくため息をつく。


「場所を変える。ついてきて」


 知由に言われるがまま、晴真は立ち上がる。


 しかし知由がすぐに移動しなかったため、動けないでいる。


「一弥、仕事」


 一弥の手が空き、戻って来そうなところを呼び止めると、ようやく厨房に入った。


「仕事って、依頼?」


 なにも知らない一弥は、知由に聞いても答えが返ってこないことをわかっているがゆえに、雪兎に聞き、雪兎は頷く。


「わかった」


 一弥も厨房に入っていき、晴真がついて行っていいのか迷っていたら、雪兎が手のひらでついて行くように誘導した。


 スタッフしか入れない厨房は、あまり広くはないけれど、食欲をくすぐられる匂いで満ちている。


「こっち」


 厨房に気を取られていたら、一弥に言われ、声がしたほうを見る。


 一弥は『staff room』と記されたシールが貼ってあるドアの前に立っていた。
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