探偵少女
「いらっしゃ……」


 雪兎が妙なところで言葉を切り、不審者を見るような目をしているから、三人は今来た客が気になって、振り返る。


 そこに立っているのは、夢里と似たような格好をした、男性だ。


 彼は夢里を発見し、口元だけで、緊張が解れたのがわかる。


「よかった、見失ったかと思いました。夢郷さん」


 芸名のほうで呼ばれ、夢里は表情を引き締める。


 彼は帽子を取り、顔を見せる。


「うそ、朝原晴真?」


 一番に反応したのは、友奈だった。


「中矢の知り合い?」


 知由の発言に、友奈は耳を疑う。


「知らないの? 今、女子高生を中心に人気の俳優、朝原晴真よ?」


 知由は首を捻る。


 温度の差により、友奈の興奮している気持ちは鎮まった。


「三崎は流行なんて興味ないんだった」
「それなりには知ってる。でも、中矢の趣味には興味ない」


 いつも通りのやり取りは、晴真を困らせてしまっている。


 それに気付いた友奈は、知由に言い返すのはやめた


 夢里は晴真を手招きし、隣に座らせる。


 晴真はコーヒーを注文した。


「朝原くんは、どうしてここに?」


 そこには子供のような笑顔を見せる夢里はいなかった。


 夢里の演技を横目に、知由は他人のフリをしてコーヒーを飲む。
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