探偵少女
 舌打ちをしないことが不思議なくらいの不機嫌顔に、蒼空は喉が詰まる。


「……私、前みたいに蒼空のこと、手放しに信用できない」


 切ない瞳をして、静かに言った。


 それは、どんな罵声よりも蒼空の心を抉った。


「雪兎、帰ろう」


 雪兎はなにか言いたそうにするが、なにも言わずに、窓を閉めた。


 蒼空はおぼつかない足取りで数歩下がる。


 雪兎が車を発信させると、蒼空は車が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。





 雪兎に送ってもらい、知由は自宅に篭っていた。


 静かな空間で、先の蒼空の表情を思い出す。


 見ているこっちが苦しくなるほどの、切ない瞳。


『蒼空さんが三崎に嫌がらせなんて、ありえない』


 ふと、友奈の言葉が再生された。


 実際に蒼空の顔を見て、友奈が言ったことを信じたくなる。


 それを頑なに否定して、蒼空の表情を忘れようとする。


 そのとき、電話の着信音が部屋に響いた。


『三崎夢里』


 テレビ電話であることも確認し、電話に出る。


 映ったのは夢里ではなく、不機嫌顔の晴真だ。


「俺に話したいことってなんですか」


 電話が繋がってすぐ、晴真は冷たく言った。
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