探偵少女
 一弥は心の中で、夢里を恨む。


「……雪兎」


 晴真が知由を見て、言葉を発しようとした瞬間に、知由が雪兎を呼びながら立ち上がった。


「なに?」


 この殺伐とし始めた空気など、微塵も気にしていないほどに穏やかな声だ。


「羽よりも軽い口を持った男をクビにし、いつまでも子供のような演技下手の女優を出禁にしろ」


 そして知由は厨房に入っていく。


 すれ違いざまに改めて睨まれ、一弥は見えないナイフで心臓を刺されたような気分になった。


「怒らせちゃった」


 対して、夢里は気にしていない。


「成長していくにつれて、恐ろしさが増してるんだよな……生きた心地がしない」


 一弥は大きく息を吐き出しながら、雪兎の隣に立つ。


「気にしないでくださいね、朝原さん。いつものことですから」


 見るからに戸惑っている晴真に、雪兎は本当に気にしていない様子で言い、コーヒーを差し出す。


 まだ困惑気味ではあるものの、そう言われてしまっては、なにも言えなくなる。


 出されたばかりのコーヒーと一緒に、言葉も飲み込んでしまう。


「彼女、モデルとかやられてるんですか?」
「いえ、ちぃちゃんはそういった仕事には興味がないみたいなんです」
「身近に芸能活動している人がいても、ですか?」


 夢里は困ったように、寂しそうに笑う。
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