先輩、お久しぶりです

再会


「あ、はじめまして」

 
怪訝そうな表情でこちらを睨みつけてきたこの人とは、『はじめまして』というには面識があり過ぎて挙動不審になってしまった。

 
約5年ぶりの再会に「お久しぶりです」が正解なんだろうけど、咄嗟の挨拶につい初見なフリをした。

 
「えっと……楽しんでますか?」

「楽しくはない」

「ですよね」

「……」


手に持ったアルコールをちょびちょびと飲みながら、お互いたいした会話をしようともしない。


周囲は大きな声で笑ったり真剣な話をしたり、自分の武勇伝を弄舌に語っていて耳を塞ぎたくなるほど賑やかなのに、向かいあう私たちの周りには真っ黒なブリザードが吹雪いている。


それでもどうしても気になって、私はグラスに口をつけながら目の前に座るこの人を、チラチラと上目遣いに見てしまう。


藤井昂良(ふじいたから)さん。
大学の2年先輩で同じサークルだった人。


そして、私(若宮千春(わかみやちはる))の失恋相手。


もう会うことは絶対に叶わないと思っていたのに、まさかこんなところにいたとは……。
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