先輩、お久しぶりです


「お、おいおい……キミたち知り合いなの?」


二人ののっぴきならないやり取りに、困惑気味の的場さん。
オロオロしながら傍観していたのだろう、会話の内容が見知らぬ人同士とは思えないことに首を傾げたようだ。


私はイラつく胸の内とは裏腹に、顔にはさらに優雅な笑顔を貼り付けた。


「いいえ、『初対面』なので存じ上げません」

「俺も『初対面』でこんな失礼なやつは知り合いにいないな」


ムッカ〜〜!


あぁ、はいはい分かってましたよ。
あいも変わらずこういう人だって。


だけど、飲み会の席とはいえ職場でも一応先輩にあたる。
これ以上ここにいたら本当に喧嘩になりそうだし、場をしらけさせるのも悪いから移動しよう。


「すみません、そういえば社長にお酌を頼まれてたんでした。申し訳ないですけれどこれで失礼しますね」

「……逃げるんだな」


テーブルに手をつき立ちあがろうとして、余裕たっぷりに澄ました顔と目が合った。
お前の負けだとでも言いたそうな表情にほんと腹が立つ。


「でしたら一緒に社長にお酌しに行きますか?」

「どうぞお構いなく」

「では、失礼します」


そう言って笑顔のまま立ち上がり、その場からさっさと移動した。


久しぶりに再会したと思ったらあの態度!
どれだけ私のこと嫌ってるのか知らないけど、あんな態度される覚えはない!


的場さんはあわあわと困った感じなのに対し、昂良先輩は堂々と無視してまたお酒を飲んでいた。
その様子がさらにムカついて、社長にお酌する手元に力が入った。


時間が進むにつれ、大人数での飲み会では話しかけられる頻度も高いせいか、先輩とのやり取りの嫌な気分も若干薄らいできた。


なのにたまたま先輩のいる場所が目に入ってしまい、女性陣に囲まれて嬉しそうにしている姿を見て、またムカムカしてきた。


チヤホヤしてもらえるのが嬉しいのか鼻の下伸びてる。馬鹿みたいな顔になってますよ!と心の中で毒づいてやった。
< 10 / 152 >

この作品をシェア

pagetop