先輩、お久しぶりです

「いえ、観てたら帰るの遅くなるんでそろそろ……」
「車で送ってくから!」


間髪入れず引き止めてきた。
子犬のように潤んだ瞳で懇願する表情に、ついつい頷きそうになるけれど流されてはいけない。


「今ならまだ普通に帰れるんでいいです」

「頼むっ!俺一人で観れない映画なんだ」

「な……なんですかそれ」

「一緒に観てくれたら、このあいだ的場が言ってたケーキ屋で嫌ってほど食って、お土産も好きなだけ買っていいから!」


ちょっ、なにその条件!
ていうか、そもそも一人で観れない映画なんて見なくてよくない?!
そう思ってしまうけれど、断る理由が思いつかなくて咄嗟に言葉が出てこない。


いや、先輩がここまで食い下がってくるのが珍しくて呆気にとられてるだけなんだけど。


「……分かりました。そのかわりたっぷり買ってもらいますよ」

「もちろん!」


これ以上ないというほど爽やかな笑顔を返してきた。昔からその笑顔に弱いのは自覚してたけど、うっかりほだされるなんて、私ってなんてチョロいんだろう……。


結局、一人では見れない映画といわれマジ怖なホラーかと思いきや、24時間笑うまで仕掛けろ!というコメディで映画でもなかった。


「わははは!このお仕置きめっちゃ痛そう!」

「……あの、先輩。これ、一人で観れるやつですよね?」


右横を見ると長い脚を組んでソファの背もたれに手を広げ、片手で口を押さえながら肩を震わせ能天気に笑っている。


「千春見てみろよ、あの顔!うわはは!」


バカ笑い……。
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