先輩、お久しぶりです
「先輩は長いの嫌いでしたもんね」
「今は好きかな」
今は好きと即答されドキッと勘違いしそうになったけれど、よく考えれば以前見た加藤さんも長めの髪型だった。
だから、単に長い人に好みが変わっただけなんだろう。
「千春はなんで伸ばしてんの?」
「長い方が色々可愛いじゃないですか」
「そんなの気にしなくても千春は可愛いって言ってるだろ」
「だ、だからそういうことサラッと言うのやめてくださいよっ」
もう、なんなの本当にっ。
低く落ち着いた声でそんなこと言われると、鼓動が激しくなってこの状況がいたたまれなくなってくる。
すると先輩はまた体勢を変え、うつ伏せになりながら少し体を浮かせた。
その仕草が無駄にセクシー過ぎて目のやり場に困る。
さっきよりもずっと近くなって、ドキドキしているのを悟られないように必死に顔を背けた。
「千春」
「は、はい」
「千春?」
「なんですか」
「なぁ千春」
「だから何ですかっ」
何度も呼ばれるのに何も言わない先輩に怪訝な顔を向けると、掬い上げるように下から顔を覗かせてきた。
さらに至近距離で目が合ったことに驚いていると突然、唇に温かなものが触れた。
目を見開いたままの状態で、何が起きたのか一瞬では分からなかった。
ここは先輩の家。端正な顔がこんな間近にあって、心臓が破裂しそうなほど脈打っている。
このあり得ないシチュエーションに思考が停止した。