先輩、お久しぶりです

「先輩は長いの嫌いでしたもんね」

「今は好きかな」


今は好きと即答されドキッと勘違いしそうになったけれど、よく考えれば以前見た加藤さんも長めの髪型だった。
だから、単に長い人に好みが変わっただけなんだろう。


「千春はなんで伸ばしてんの?」

「長い方が色々可愛いじゃないですか」

「そんなの気にしなくても千春は可愛いって言ってるだろ」

「だ、だからそういうことサラッと言うのやめてくださいよっ」


もう、なんなの本当にっ。
低く落ち着いた声でそんなこと言われると、鼓動が激しくなってこの状況がいたたまれなくなってくる。


すると先輩はまた体勢を変え、うつ伏せになりながら少し体を浮かせた。
その仕草が無駄にセクシー過ぎて目のやり場に困る。


さっきよりもずっと近くなって、ドキドキしているのを悟られないように必死に顔を背けた。


「千春」

「は、はい」

「千春?」

「なんですか」

「なぁ千春」

「だから何ですかっ」


何度も呼ばれるのに何も言わない先輩に怪訝な顔を向けると、掬い上げるように下から顔を覗かせてきた。


さらに至近距離で目が合ったことに驚いていると突然、唇に温かなものが触れた。


目を見開いたままの状態で、何が起きたのか一瞬では分からなかった。


ここは先輩の家。端正な顔がこんな間近にあって、心臓が破裂しそうなほど脈打っている。


このあり得ないシチュエーションに思考が停止した。
< 106 / 152 >

この作品をシェア

pagetop