先輩、お久しぶりです
少し長めのキスの後、一瞬離れたかと思うとまた唇を塞がれ、また離れると私の目を見つめさらに唇を重ねる。
何度も……。
そして徐々に深くなる口づけに頭の芯が蕩けそうになっている自分がいた。
「……っん……はぁ」
ギュッと閉じていた瞼を少しだけ開けると、先輩の表情が間近に見えた。
眉根を寄せた顔が悩まし気で、唇を離した瞬間に薄っすら開いた瞳は潤んで熱を帯びている。
そして息荒く性急な口づけをしては私を離してくれない。
絡み合う水音とお互いの吐息しか聞こえないこの空間に、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚が込み上げ涙が浮かんだ。
きっとこの家に来た時点で、何度も引き止められては留まった段階で、徐々に近づく距離にこうなることを予想していたのかもしれない。
でも、このまま身を任せてしまいたい……そんな欲求に呑み込まれてしまう程の熱いキスは、予想していなかった。
いつのまにかソファに倒れ込んでいたのか、上から覆いかぶさっていた先輩が腕を立て上半身を少し起こした。
私は朦朧とする頭を振り払い、溢れそうな涙を堪えたまま見下ろす先輩を睨みつけた。
「……こんなことするために……ここに来たわけじゃ、ありません」
震える声を必死に抑えながらさらに睨みつけた。
「分かってる」
「……どうして……」
「千春が可愛すぎるから」
「やめてください」
この期に及んでまたそんなこと。どうして今さら困らせるようなことを言うの。
眉を下げた表情で見下ろすと私の頬を片手で包み込み、先輩は囁くような低い声で呟いた。
「もう昔みたいには戻れないのか?」
「……無理、です」
私たちは先輩後輩としての垣根を軽く超えてしまった。
もうあの頃のように屈託なく笑い合って過ごすことは出来ないと、このキスで思い知った。
涙を浮かべたまま目を逸らすことなくハッキリ口にすると、悲しそうに目を細める。